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旧授業百景

「物理化学Ⅰ」

〜物理と化学で敬遠されがち?知識を自在に操るための心髄授業〜

2021.11.04

“物理化学”って物理+化学?それとも物理,化学?

高校ではなかなか見ない組み合わせに、思わず首を傾げてしまうでしょうか。しかし、そこには単純な知識の複合だけではない、この先どんな場所でも必要になってくるエッセンスがぎゅっと詰まっています。

この記事を読んでいるあなたも、物理化学の扉を叩いてみませんか?

今回は、工学部応用化学科の1年生を対象とした授業「物理化学Ⅰ」について、熊谷義直先生にお話を伺ってきました。


<プロフィール>
お名前:熊谷義直(くまがい よしなお)先生
所属学科:工学部応用化学科
研究室:結晶工学・結晶成長
趣味:鉱物採集・読書

物理も化学も両方できなきゃ役に立たない

―「物理化学Ⅰ」は高校の物理や化学で学んだ基礎知識をもとに、物質の物理変化・化学変化後の状態の予測や、変化の自発性について学ぶ授業です。ですが、そもそも“物理化学”に対し、物理なのか化学なのか、曖昧な印象を持っている人が多いとも言われます。先生から見た「物理化学Ⅰ」は一体どのような授業なのでしょうか。

“物理化学”と言うと、化学好きの学生にとっては物理が苦手、物理好きの学生にとっては化学が苦手、みたいにとっつきにくく思われてしまうケースが多いんです。馴染みが無くてあまりやりたくないなって。でも何か研究しようってなったときに、結局どちらの科目も扱えるようになっていないと、やることが限られてきてしまう。だから、物理化学は「物理も化学も両方できなきゃ実は役に立たないんだ」というメッセージが強く込められている授業なんですよね。僕はこれが一番重要だと思っています。「知識を総動員していろいろな問題に取り組むための、基礎的な能力が身に付く学問」であると。だから大学生になったら、応用化学科に限らず、どの学科の学生もひと通り道具として物理化学を身につけて欲しいなあ、というのが、僕が物理化学を頑張って教えている理由です。

―道具、ですか?

そうですね。高校では物理と化学があまりに両極端に違うことをやりすぎていて、全く別のものとして捉えられるようになってしまっている。例えば、化学が好きだから化学科だなと思っていざ大学に入ると、これ僕の嫌いな物理じゃんって困ってしまうでしょう。だから、自分は物理がやりたいとか、化学が得意だから化学を専攻する、という考え方でいるよりは、「物理も化学も興味があって、それらを道具として使いこなして研究する為に授業をちゃんと聴くか〜」くらいの心持ちで学生さんがいてくれると嬉しいですね。

道具として知識を使いこなせるように

―授業づくりにおけるこだわりや意識しているポイントについて教えてください。

高校生や大学生で、とりあえずこの大学かな、この研究室かな、という軽い気持ちで選びがちな学生さんがいますが、それってその学問に対する具体的なイメージが掴めていないからだと思うんですよね。だから僕は授業で「Aの知識とBの知識が道具として身についたらすごく役立って、将来こんな得ができるんだ」っていうふうにね、感じてもらえるように僕自身の経験や実例をなるべく出して話しています。自分の研究でこの知識をどう使っているだとか、実際に社会のどういったところで役に立っているだとか。教科書の内容だけだと、せっかく勉強するのにもったいないですから。

―確かに、先生の授業では知識の実用例や身近な現象例について色々なお話があって、とても分かり易かったです。想像しやすいというのか。

学生の食い付きがいい時と悪い時とがあるんだけどね(笑)。僕がやっている研究のひとつの酸化ガリウムでは、「平衡反応が炉の中で15個くらい同時に動いていて、その15個の平衡を全部計算したうえで、どこを突っつくとどこに転がっていくか」を実験するんです。実際はそういうことを研究室でやっていて、それを手っ取り早く学生さんが実感できればいいのだけど、それを学部の授業でやると授業じゃなくなってしまうでしょう。だから大学入りたての頃は、とにかくいろいろな基礎科目を自由に使いこなせるように練習して、どういうところで使うのかなって想像してもらうことが大切ですね。そうしないとやっぱり、どうしてこんな数式解かなくちゃいけないのってなりますから。

―結構…損得の領域なのでしょうか?道具として役立つかどうか、みたいな…

まあ物理化学って損得の学問ですから(笑)。自然界でもそうでしょ、自由エネルギーが増えたら起こらない、減ったら反応が起こる、とか。損得だけで転がっていくからね。そこを僕ら研究者はうまく突っついて、どっちに転がるかなっていうのを制御しなくてはいけなくて、それが難しいことなんだけれど。ただ、とにかく言えるのは「いろんな学問を道具として自在に操れている人は、本当に沢山の方面からアプローチできる」ということですね。こう考えるとああだけど、こっちで考えるとこうだし、ってやっぱり日々の勉強でも研究でもそういう多角性が必要ですよね。

誰も作れないものを自分だけが作れる

―先生から見た物理化学の面白さ、とは何ですか?

僕の研究室でやっている研究は、AlN(窒化アルミニウム)やIII族窒化物半導体、Ga2O3(酸化ガリウム)とかの結晶成長(※注釈)についてなんです。半導体結晶の気相成長ですね。そこではもちろん物理化学を使いますし、他の分野の知識もいろいろ引っ張ってきますよ。

―気相成長は「気体状態の原料から種結晶(基板)上に作り出す(成長させる)」試みですよね。結晶が成長する…私が高校生の頃は馴染みのない表現だったように思います。

そう、結晶は成長するんです。それで、どうにかして目的のものを作れないかなって試行錯誤してね。百聞は一見に如かずって言うでしょ?ただ理屈をこねているだけだと結論は出ないので、最後の最後はやはり実験あるのみです。予言者よりも実行者の方がはるかに偉くって、どんなにこうやれば出来るんじゃないのって言っても、じゃあ本当に出来るのかって言われたらそれまでなのでね。

だから、そういうふうに色々実験を積み重ねていって、その結果として「誰も作れないものを自分だけが作れる、そのやり方が生み出せる」っていうのがとても面白いですね。みんなが出来ることを単にやっているだけじゃ意味無いですし。そういうことがすごく重要だと思うので、後世に伝えられるようにしていきたいですね。


(※注釈)結晶成長
様々な種類の単結晶を目的に応じて体積増加させること。こうすることで、身近な電子機器に多用されている光・電子デバイスを作製することができる。



熊谷先生の「授業百景」はここまで!

熊谷先生の学生時代の経験や研究者としての一面、研究への想いについて詳しく知りたい方は「#35「熊谷義直先生」~地球は巨大な無機反応炉!ヒトが地球と継続的に暮らしていくための結晶成長~」もあわせてどうぞ!

文章:もふ食堂
インタビュー日:2021年06月11日

※ 授業の形式等はインタビュー当時と変わっている場合があります。何卒ご了承ください。
※インタビューは感染症に配慮して行っております。