「化学基礎」
〜化学を知れば生物はもっと面白くなる!学びの根幹を生み出す授業〜
第31回は、「化学基礎」について、工学府 生命工学専攻(学部での生命工学科にあたる) 准教授の寺正行先生にお話を伺いました!
今回は、授業の中での工夫や授業に込めた思いをお聞きしたいと思います!
〈プロフィール〉
お名前;寺 正行(てら まさゆき)先生
所属;工学府 生命工学専攻 准教授
おすすめの本;「二重らせん(ブルーバックス新書)」
ジェームス・D・ワトソン著 江上不二夫/中村桂子訳 講談社文庫
バイオロジーにつながる「化学基礎」
…まず初めに先生が担当されている「化学基礎」の講義の概要をお聞きしてもよろしいでしょうか?
そうですね、名前は「化学基礎」と銘打っているんですけど,生命工学科の化学基礎では,有機化学が重きを占めていて、高校化学から大学での有機化学・生化学にステップアップするための基礎 になるようなそういう位置付けですね。
内容は、原子の成り立ち、立体科学、分子の構造とか、化学反応の基礎である熱力学とか反応速度論などの基礎ですね。だから学習内容は、高校の時とかなりオーバーラップしていると思います。
…今後の専門性の基礎となる授業なんですね…その中で寺先生は何を担当されているんですか?
私のところは、教科書の第1章からで、s軌道,p軌道とかの原子の成り立ちから始まって、本当の有機化学に入る前に終わってしまうような、すごい基礎なんですよね。
そこが逆に難しいんですけどね。基礎って結構退屈でしょ?笑
僕も高校の時化学が大好きだったんだけど、大学に入って挫折気味なところがあって、なんでそれをやるのかよく分からなかったんだよね。きっと基礎でつまずいたんだろうね。
…確かに基礎って知識の詰め込みになりやすいですもんね、、、
そうだね。それに、生命工学科なので、純粋に化学やりたいって人はあまりいないと思うんだよ。だけど、生化学とか分子生物学にはみんな興味があるから、そことの関連を多く講義に取り込んでいますね。問題を出すにも糖とかアミノ酸を取り上げて、それら分子が実はどういう形をしているかとかとリンクすれば、少しは退屈な基礎でも興味が出るかなって笑
それに有機化学をやってから、生化学をやるとただの暗記じゃなくなるのでめちゃめちゃ面白いんですよ。DNA、糖、タンパク質、何をとっても全部化学物質じゃないですか?だから、その部分で役に立つところを学んでいるんだよってことを、必ず授業の導入にいれてますね。
…常に生物と化学の融合分野を見据えた上での、講義なんですね、、、
そうですね。私自身が、昔から化学も生物も好きで、DNAのワトソンとクリックの話を読んで、この分野に進むことを決めたんですよ。
「化学物質が生命にどういう影響を与えるのか」とか、「化学物質で生命ができてる」っていうところが、ずっと興味の原点で、今もそういう研究してるので。自分が好きなことを教えたくなりますよね笑
学生の理解を置いていかない授業づくり
…授業をする上で特に気をつけていることは、なんですか?
「化学」って書かないと理解できないんですよね。
有機化学では、電子がたくさんあるところから、電子が少ないところに矢印を書いて、それで結合できるかできないかを理解するんです。これって教科書読んで、あーそうかって思うんだけど、実際に化合物の合成法を考えてみようっていう時に、それだと全然わからないんですよ。
だからオンラインの授業でも、その流れが見えるようにiPadのホワイトボードで授業をして考え方の動き、つまり考える時の思考の道筋を見せることを大事にしていましたね。
加えて、課題は紙に書いてもらったものを写真で送ってもらって、少しのコメントと一緒に採点して全員に返す、そして各授業の冒頭15分はそれの解説に使う、ってことを毎回の授業でやっていました。学生には課題が多すぎる!って言われたんですけどね笑
…最後に,学生に伝えたいメッセージをいただけますか?
そうですね,大学に無駄な授業なんてないんですよ。
農工大の卒業生って何かしらの形で研究に関わる学生って多いと思うんですけど,そうすると,今は実感しなくても少なくとも10年以内には,授業の内容がどっかで役に立ちますよ。
僕も数学が大嫌いで逃げ回ってたんですけど,製薬会社で働いてた時に感じたのが,特に薬物動態とかって微分方程式の嵐なんですよね笑
それに,人文社会系だってすごく大事で,僕スイスに留学していたんですけど,そうするとラボの外国の学生に日本のことすごく聞かれるんですよ。たとえば,イギリスって憲法ないでしょ?そうすると「日本には憲法あるだろ,どんな感じなの?」って聞かれたりして,そこで答えられなかったらお前ほんとに日本人なのか?ってなるじゃないですか。笑
だから理系にいるからって化学,生物とかはもちろん,人文社会だって,そういうところで役に立つんだなって思いましたね。
そうですね、留学は本当に得るものが多くて農工大生の皆さんにも是非いつか行って欲しいと思います。ただし、なんとなく海外に行くんじゃなくて、自国の文化はもちろん、専門だったり、特技だったりといった自分の土台になるものを持ってから行くと、得られるものはより多くなると思います。
…ありがとうございました!
生命工学科での学びの全体像を見据えながら、基礎を形作っていく。まさにそんな授業であると感じました!また、学生と教授が近い距離感でフィードバックが常にもらえるというのが良い意味で大学の講義らしさがなく、しっかりとした理論の習得を促している講義だと思います!
最後まで読んでいただきありがとうございました。
授業百景第31景はいかがでしたでしょうか?
この後には、先生のユニークな研究者人生や研究内容などについてお聞きしました!
そちらは動画での公開となっており、現在製作中です!
※ 授業の形式等はインタビュー当時やアンケートの回答時と変わっている場合があります。何卒ご了承ください。
※ インタビューは,感染症に配慮して行っております。
インタビュー日;2020年12月8日
文章:こぶじめ