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旧先生大図鑑

生嶋健司先生

〜理想は19世紀の実験家?!不思議なことを確かめる物理の研究〜

2021.02.05

第25回は生体医用システム工学科の生嶋健司先生にインタビューしました!

今回は、生嶋先生の今に至るまでの経緯、研究への想いについて詳しく教えていただきました。


〈プロフィール〉
お名前 生嶋健司先生
所属学科 生体医用システム工学科
趣味 リクガメなどの動物を飼っています

―先生の研究について教えてください!

 私は時々、何が専門か分からないと言われるのですが(笑)専門は物理学で、今その中で、思いついたこと、面白いと思うことをやっているので、結構テーマが広いっていうんですかね。

 パッと見、全然バラバラの研究をしているように見えるかもしれません。「なんで半導体デバイスを作っているこの研究室が、超音波の医療系もやって、トンネルや橋などのインフラもやっているの?」と。

 ただ、私のなかではあまり離れていません。物理学は普遍性を見つけるのが重要で、「数式的に同じだったら一緒でしょ」、という考えなんですね。例えば、宇宙と大気の間には電離層というところがあって、オーロラとかが起きているところなのですが、その電離層で考えているモデルというのは、普通の金属の中の自由電子のモデルと数式的にはほとんど一緒なわけです。だから、オーロラの研究と金属の研究はよく似たものなんですよ。

 物理をベースとして、それをどう生かしていくかとか、分からない現象を解明していこうというのはベースにあるのですが、何を研究するかを考えるときに大切にしているのは、あまり流行りを追いかけるのではなく、自分が不思議に思ったこととか、こういうことをしたらこんなことが起きるんじゃないかということを確かめよう、ということです。

(先生の研究の一例:超音波を使って、骨や臓器の形だけでなくて、体の中の電気信号まで調べられるように?!)

―どうして物理学の道に進まれたのですか?

 実は高校物理にはなんの面白さも感じていなかったんですよ。暗記科目みたいで興味がなかったのですが、高2高3くらいの頃に、ランダウというノーベル物理学賞をとった有名な先生の高校数学でわかる特殊相対理論についての本を手にとったり、予備校のテキスト読んだりしたときに、物理の見え方が変わりました。物理学は法則から派生していて、色々なことを普遍的に見ていくような学問だと言うのは、高校のときにも、なんとなく感じていたのかもしれません。それで興味を持って物理の分野に行こうかなと思いました。

―大学の学部では、どんなことをされていたのですか?

 学部は早稲田大学の応用物理学科で、研究室は物理学なら何やってもいいよというところでした。みんな自由に何やろうと考えながらやっていて、私は物理学のあらゆる分野をサーチして、自分がどんなことを計算できるかなと考えていました。宇宙かな、核融合かな、生物物理かなと色々見ていました。そのときに、あまりにも分野が広いことに気がついて途方にくれました。だから、4年の間は卒論のテーマを決めることにほとんどつぎ込んだ気がします。

 その後、大学院にあがったんですけど、頼りにしていた助手の先生がイスラエルの有名な研究所に行ってしまったこともあって、東大の大学院に移りました。そこでNMR(磁場を用いて物質の性質を調べる測定方法)の研究室に入りました。学部生のころは研究する分野にすごくこだわっていたのですが、なんの分野が面白いのかを決めることは難しいということに気が付きました。スポーツの中で最も面白い競技は何か答えを出そうとしているようなものであると。それで、もし面白いことがあるとしたら自分自身で作らないとだめなんじゃないかなってね。だから、何を研究テーマとするかっていうのにこだわらず、どんな技術とか知識を吸収するかを重視する方向に変えたんですね。NMRというのは医療にも使われるし、化学物理にも使うし、ノーベル賞も物理だけで3つ4つ取って、化学も医療も取っていて、奥が深いのでマスターするのはありだなと思って選びました。

 その研究室ではNMRの実験をして物質の性質を調べるということをしていました。電波を使ったり、NMRの原理を学んだり、実験のための装置作ったり、いい経験になったのですが、NMRはある程度確立している技術なのでメソッド(研究の手法)にはオリジナリティがないわけです。

 そのことに疑問を感じて、一つ一つ自分ができるメソッドのバラエティを増やしていくことで、アイデアが出たときに全然違うメソッドを組み合わせて研究することができるんじゃないか、と思い始めました。

 そのため、今度は全然違う分野の方に移って、半導体デバイスみたいなものを作れるようにしようと考えました。その後も、半導体の研究室のなかで何故か超音波の実験とかしていました(笑)。

 ちょっとずつ色んなことをメソッドとしてできるようにして、今後それらを融合して自由にできるようになりたいなと思ってやってきました。

―様々なメソッドを融合した研究ですか…!

 19世紀ごろの物理の研究者、実験者にあこがれがあって。

 ファラデーとかね、昔は不思議だなと思ったことを確かめようとか、そういうことで実験装置を作って、原理を探求していったので、 メソッドを全く固定していないわけですよ。 遠くの天体を見たいと思ったらそのためにレンズやミラーを工夫して望遠鏡というものを発明したわけですよね。  

 そういうスタイルが本当は実験家としては理想なんじゃないか、というのはずっと思っています。「こういうことしたらこんな面白いことがあるんじゃないか」というところからスタートしたい。それが研究の存在意義というかオリジナリティになると思っています。 

―最後に高校生にメッセージをお願いします!

 自分の可能性は無限にあると思って、何を一生懸命できるか、それは高校のときに決める必要はないかもしれないですけど、そういうのを探していくと良いんじゃないかなと思います。

 そのときに、一生懸命インターネット上を検索して何が面白いか選ぶみたいなことは、あんまりうまくいかないんじゃないかと思います。私がそれで、失敗したというのもあるけれど。検索してこうゆうものもあるなと思うのは、興味を引き出すには良いと思うのですが、今流行っている技術というのは、場合によっては7、8割くらいまで研究されていて、自分がそこに参入して、5年10年かけてマスターした頃には、その技術の可能性に限界が見えているか、既に広く使われているか、どっちかなことも多いです。

 そのときに、自分が何を目指すかを考えるときに、「自分が面白いことを作り出す」という考えもあると知って欲しいです。でも自分が作り出すためには、いろんなこと経験していかないといけません。だから、絶対これをやるとか決めなくても、ある程度興味があるところに入って、そこでちょっとずつ深く学んでみます。そうすると見えてくる景色も変わってくるから、今まで興味なかったことが面白く見えてきたらそっちに行ったらいいと思います。そういう風に探していって、夢中になって、できれば自分で面白いと思うことをつくりだせるといいんじゃないかな。

 私も今は医学系、水産系、植物系の人と一緒に研究しているんですけど、高校生の時には土木の研究をしたり魚の研究をしたりするとは、思ってもいなかったです。

 例えば昔の電気メーカーさんが今は医療、食品加工とか色々展開してるんだけど、そんな風に、何かちょっと武器があると、将来的に色々なことに融合していくと思います。

 だから、これって決めなくても自分がアピールできること蓄積していくといいかな。

生嶋先生の「先生大図鑑」はここまで!
生嶋先生の授業が気になる方は「第二十五景「電磁気学応用」~異分野の研究を融合できるようになるには?~
」も合わせてどうぞ!

先生大図鑑#25はいかがでしたでしょうか?
最後まで読んでいただきありがとうございます。次回もお楽しみに!

文章:あだち
インタビュー:2020年12月4日

※インタビューは感染症に配慮して行っております。