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旧授業百景

「環境哲学」

〜映画『天気の子』の主人公も学んだかも?!人と自然のより良い関係を探る哲学〜

2021.04.19

哲学と聞くと、抽象的で難しそうなイメージを抱くかもしれません。でもそれって誤解かも?!環境問題や自然を”哲学”するおもしろさを伝える授業をつくる澤先生にお話をお聞きしました。ぜひ最後までご覧ください!

今回は、地域生態システム学科の2年生を対象とした「環境哲学」の授業についての特集です。

  • 授業概要
  • 哲学とは?
  • なぜ環境を「哲学する」のか
  • 授業の一例
  • 授業の舞台裏

<プロフィール>
お名前:澤佳成(さわ よしなり)先生
所属学科:地域生態システム学科
研究分野:環境哲学
趣味:音楽鑑賞、映画鑑賞、野球の応援(千葉ロッテマリーンズ)


授業概要

自然環境を破壊してしまう私たちの社会のしくみと、人と自然の関係について広く深く考える授業。

例えば、人類の進化と人間の赤ちゃんの成長を比べながら、自然環境が人の成長や発達にいかに影響を与えてきたか、潜在的に必要なものなのかを考える。かと思えば視点は世界へ飛び、遠い国の貧困や森林伐採がどうして起きているのか、私たちの生活にいかに深く関わっているかを紹介する。そして国内については水俣病を取り上げ、その複雑で長い歴史を現地の人の声とともに辿る。

上のような多様な問題の中に、ある“共通したしくみ“を見いだしながら、環境問題の本質に迫っていく。後半では持続可能な社会をキーワードに、様々な地域の事例を交えて人と自然との新しい関係を考える。

内容は豊富だが各回のつながりと要点が絞られていてシンプルでわかりやすく、時々登場する先生作のイラストもかわいい(受講生談)。易しく優しい語り口と丁寧なフィードバックが好評の名授業。

哲学とは?ーものごとの根本原理を探るー

ーそもそも哲学とはどのような学問なのでしょうか?

哲学とは、いろんな見解がありますが、簡単に言ってしまうと、より普遍的な(誰もが受け入れられる、どんな場所でも適用できるような)根本原理を探究するのが哲学です。

哲学って英語でphilosophyといいますよね。この言葉は、古代ギリシャでいうところの愛するという言葉philosと、知識や知恵を意味する言葉sophiaがくっついたものです。つまり哲学の語源は、知を愛するということです。これを突き詰めると、「知りたい!」と思った物事の根本を探ること、そしてそれをいかに普遍化することができるかということにつながっていきます。

なぜ環境を「哲学」する?

―環境というと温暖化とか現象のイメージが強かったのですが、環境と哲学はどのように関わってくるのでしょうか?

そうですね。環境問題というと、温暖化とか気候変動とか、自然科学的なアプローチが中心になっていますよね。だけど、そもそも温暖化をもたらしたのは温室効果ガスの排出、つまり私たち人間の経済活動の結果です。自然の資源をたくさんとって、作って、それを消費して、廃棄する。廃棄する過程で、温室効果ガスが発生します。大量に生産し、大量に消費する社会が可能になったから温暖化は起こったのです。だから環境問題がなぜ起こるのかを考えるためには、科学的な理由にくわえて、社会的・経済的なしくみを知る必要があります。そして、そのようなしくみの根本にある社会観や自然観を支えているのがその時代の哲学なのです。

歴史的に見ても、大量生産大量消費社会を支える科学や技術の進化を可能にしてきた背景には、実は哲学的な考え方の転換があったのです。哲学的な転換(機械論的自然観、自然権思想、二元論などの思想の誕生)によって、例えばそれ以前は理解できない恐れ多いものであった自然を、理解できる操作可能なものと捉えるようになったのです。その結果、自然の資源を際限なく用いた大量生産大量消費社会を可能とする素地を作ってしまったわけです。

だから、本当の意味で環境問題を理解するには、哲学的な背景がわかっていないといけないんじゃないかと私は考えています。そして、人と自然との新しい関係を構築するためにはまた新しい哲学が必要になる、それこそが環境哲学の探求ポイントなのです。

授業の一例

―授業の具体的な部分を少し教えていただけないでしょうか?

そうですね。コンゴ(正式名称はコンゴ民主共和国。絶滅危惧種のゴリラが住む豊かな自然と豊富な鉱物資源に恵まれた国。しかし紛争と貧困、自然環境の破壊が深刻。)の話がやっぱり象徴的なのではないでしょうか。

皆さんが使っているスマホに必要な鉱物の一部はコンゴから来ています。コンゴに眠っている鉱物をとるために、森が破壊されます。そうするとそこに暮らしてきた人たちの生活環境が破壊されますよね。もちろんゴリラの住む森も少なくなっていきます。自然の資源を取り込めば、それは大量生産に役立ちますよね。だけど、資源を採る現場では、自然環境が破壊され、地域の人たちは追い出されます。もちろん鉱山で賃労働し生計を立てることはできるけど、それまでの暮らしは成り立たなくなります。そしてその鉱物を原料にしたスマホを使っている私たちには、そのような破壊の現実は、普通に暮らしていては見えません。こういうところから、環境破壊の背景にある現代の社会・経済システムについて考察していきます。

私たちのつかう電子機器が、ゴリラの住み家やいのちを奪っているのかも・・・

授業の舞台裏

―実はノコノコも先生の授業を受けたことがあるのですが、複雑なテーマを扱っていても重く感じず無理がなく、でも深く学ぶことができたように感じました。わかりやすくするためにどのような工夫をしていますか?

それはですね。日本のことわざにこういうのがありますよね。一を聞いて十を知る。教員側としては基本的に、学生に「知って」欲しいんです。だから本当なら完璧に教えて、全てを伝えたくなってしまいます。でもそうではなくて、全体が十あるとしたら、一だけ伝える。つまり一部分だけをわかりやすい事例とセットで伝えて、みんなが自分からもっと知りたくなるような授業構成を心がけるようにしています。あとは話の流れ、起承転結、そしてとにかくスリムにすることも意識していますね。

ーなるほど、そのような授業を作るには研究とはまた違ったエネルギーが必要だと思うのですが、どのようなモチベーションで授業をつくっているのでしょうか?

私の性格上、自分のためだけだと、研究も多分続いていなかったです。みんなに伝えたいという気持ちがあるから我慢して本も読めるし、みたいなところがあるのかな(笑)

ーえ! 先生のことだから本は平気でたくさん読めるのかと思っていました。

いやいや、本を読むのもそんなに早くないんです。一冊読み終わるまで次の本にはあまり行かないですし、まあ読みかけで塩漬けにしちゃうこともあるのですが(汗)

―なんだかそれを聞いて安心しました(笑

(笑)

(↑たくさんの付箋やマーク)

あとはそうですね、自分が出身大学の教育学部生だったときに、わかりにくいなと思った授業が反面教師として念頭にあるんです。たとえば社会科学の授業で、「概説」や「概論」なのに、狭い時代に限った狭い地域でのやりとりが15回にわたり延々と説明されて、テストもそれを完璧に覚えないといけなかった…という思い出があります。

でも、それでは、その学問の面白さは伝わらないのではと感じていました。学校の先生になったときに、どうその学問の面白さを伝えたらいいのか?という点も学べませんでした。お世話になった先生方の講義を例に出して申し訳ない気持ちでいっぱいなのですけれども、でもそういう内容だと、受講する側から見たらやっぱりがっかりしちゃいますよね。最悪の場合、その学問を嫌いになっちゃいますよね。だけど、それってとてももったいないことだと感じます。やっぱり自分がやっている学問が、環境哲学が、いかに面白いか、楽しいか、そして実はみんなの生活にいかに深く関わっているか、そして今後の日本も含めて世界の将来を占う上でいかに大事な学問かっていうことを知ってほしいんです。だから、寝ていてもわかる(笑!)くらいにはわかりやすいようにしようと、そういう思いでやっています。

澤先生の「授業百景」はここまで!
このような学問を通してどのような研究ができるのでしょうか。澤先生の研究やご自身について伺った動画も近日中に公開予定です。お楽しみに!

タイトルにある「天気の子」について、澤先生が言及しているブログはこちら

文章:ノコノコ
インタビュー日:2020年11月16日

※ 授業の形式等はインタビュー当時やアンケートの回答時と変わっている場合があります。何卒ご了承ください。
※インタビューは感染症に配慮して行っております。