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旧授業百景

~いざというときに思い出せる?
数学を武器に、正解はないとしても答えを出せるように。vol.2~

2020.08.12

斎藤隆文先生の「授業百景」vol.2です!
vol.1は こちら


斎藤隆文(さいとう・たかふみ)先生
知能情報システム工学科

不十分な条件に苦手意識、正解がないことへの不安

 あと、不十分な条件、それと正解がない。これ、学生さんすごく嫌がるんですね。
―あー…思い当たるような気がします笑。 笑。きれいに解けないと、なにかものすごく気持ち悪いって、そういうことを言う人が多いんですけど。例えば、通勤電車が走ってて、駅に停まる時に減速するから、加速度かかるわけですよね。そこで、「電車が駅に停まる時の加速度について、1、10、100って、どれが一番近いですか?」っていう問題を出したんです。で、こういうことってきれいな正解がない、というか。一部の鉄道マニアはね、車両の特性知ってたりするから、あることはあるけど笑。多くの人はそんなこと知らないし、正解なんてないんですが、ただ常識的な感覚はもってるはずなんです。

 中央線の電車って時速何キロぐらいで走ってるの?とか、武蔵小金井から東小金井までってどのくらい距離があるのか、そこを何分ぐらいで走るのかとか。さらに、電車の長さが中央線なら1両何mぐらいで、だとしたら、10両編成で何mかな、とかですね。そして、それが駅に入ってきてから停まるまでどのぐらいかかるかとか。そう考えてみると、駅に入ってから停まるまで、まあ数秒ってことはないですよね笑。
―たぶん、ギュンッ!てなりますね笑。 で、数分ってこともないですよね。大体まあ、数十秒かな、と。それはなんとなく電車に乗ってたら分かるよね。そういった諸々の情報使えば、大体の値は求まるんですね。

 それで、1かそれよりちょっと小さいぐらいが正解になるんですけども、たまに10とか100とかって答えてくる学生がいて、「重力加速度っていくらか知ってる?」って聞くと皆さん胸張って「はい!9.8です!」ってね、知ってるよね。「じゃあ、その9.8、重力加速度と同じぐらいの加速度が横方向にかかったら、乗ってる人どうなると思う?」ていうと、結局同じ力が横方向にかかるってことは、傾斜が45度の坂道に立っているのと同じような状況なので、とても立ってられないんですね笑。
―わー、なるほど(゜゜)! で、加速度10でそんな状況だから、100なんていったらとんでもないことになっちゃう。電車の中に立っていて、そうはならないでしょ。

 そういう風に常識として知ってることがちゃんとつなげられて類推出来るか、とかね。そういったことが、現実には大事になってくると思うんですね。だから、あえてよく分かんない条件で、何かしら答えを導くというようなことを、考えて解いてもらうんですね。
 これは、情報数学演習15回のうち、授業1回分使ってそういうのばっかりやるんですよ。
―それは楽しそうですね笑!

手作業の演習で違和感に気づく感覚を

 あと、コンピューターグラフィックスなんか特にそうなんですけど、手作業でとにかく色んなことやります。手で計算させたりとか、図を描かせたりとかね。ただ、我々情報系は本来こういうことを計算機にやらせるもんです笑。
―そんな気がします笑。 要するに、理論が分かって数式が分かれば、それでプログラム作って計算機にやらせればいいんですが、それをあえて手でやらせるんですね。それはなぜかっていうと、計算機でプログラム作ると必ずバグが入ってくるんです。間違ったプログラムを作ったら、出てくる答えも間違ってますから、その時にちゃんと、この答えおかしい!?ってことがわからないと、困るんですね。
 ただし、手で作業をやってると、なんとなくそれが分かるようになるんです。簡単な問題だったら手で解けるので、手元でもやってみて、「どうもこの答え、計算機で計算させるとおかしいぞ」ってことが分かればいいんです。

 そのために、これはちょっと専門的な話になるんですけど。4点からある曲線、ベジエ曲線というのがあって、ちょっとややこしい数式なんですけど、手作業で書く方法があるんです。4つの点を結んでそれぞれ中点をとって、中点を結んで、これどんどん繰り返していくと、この4点ていうのができる曲線の前半部分ていうのが、実はその、丸で囲った4つの点からできる曲線とおなじになると、いうようなことがあって。
―ほお! で、そういう題材を使って、手作業でもある程度正確に書けるよってことを教えるんです。実際にこのベジエ曲線っていうのはパワーポイントとか、いろんなコンピューターの簡単な作図機能だとか、いろんな曲線を描かせるときに、実はこうやって書いているの、中身としてはね。

 だいたい、特に私が工夫というか、心掛けて今までやってきたことで主だったものはそんなところですかね。

演習課題の例

英語で授業をやって、と言われたら@大学院

 あと、大学院での授業についてなんですが、最近は国際化でいろいろと留学生を増やすように、英語で授業をやってください、という話がよく来るんですけど、なかなかそれは大変なんです笑。もちろん英語で授業をやるというのが全く苦にならない先生もいらっしゃって、私なんかも研究発表はまだいいんですけど、普通の授業を英語でやれって言われるとなかなか、すごく大変なんです。また、下手に全てを英語でやると学生さんも結構大変だと思うんですよね。

 それで、私は大学院の授業で10年以上も続けてるんですけど、基本的には日本語で説明して、重要なことを繰り返すときに英語でしゃべるっていう授業をやっているんです。で、配布資料は必ず英語で説明が書いてあって、英語主体なんだけど、一部日本語も書いてあるっていうのをずっと続けています。

 農工大には、大学院でステップ*って短期留学の制度があるんですけど、それで毎年10何人かの学生が、海外から1年間来るんですよね。で、彼らが受ける授業に一応、私が組み込まれているんです。そのステップの学生が毎年数人は受けていて、他にも通常の工学部とBASEの学生さんも受けているんですけど、あんまり日本語得意じゃないっていう人には結構好評なんです。―いいですね! まあ、私もそんなに英語上手じゃないんですけど、それでも一応、理解はしてもらえる授業になっていると思います。どうしても両方でしゃべると進度が遅れちゃうっていう問題はあるんですけど。
―ちなみに、人数はどれくらいですか? 大学院なんですが、いろんな事情でBASEと工学部、さらにステップの授業と兼ねてるので、多いです。大体50~70人ぐらい。今は後期にやってるけど、かつて前期にやっていた時は、100人超えたこともあるんですけど笑。
―わわわ、大学院の授業だとすると多いですね。

忙しいという言葉じゃ足りないほど忙しい…

 あと、これはあんまり関係ないかもしれないけど笑。

 こういったことを、どうしたらいいかって時にやっぱり効率化っていうのは考えざるを得ないんですね。昔、そういう話をしたら「教育はそんなこと言ってちゃダメだ!」とかって、年配の先生に怒られたことがあるんです笑。
 けれども、今そういう時代じゃなくなってきてると思うんですね。論文の成果は求められるし、外部資金取ってこなくちゃいけないし、とかですね。もう色々と先生のやることが増えてるんですよね笑。
―ほんとに、ほんとにお忙しいですよね(*_*) で、その中で授業をちゃんとやらなきゃいけない、ていうので、やっぱり効率化は考えないといけないなというのは一つ、それからあと、まさに今やられてる活動だと思うんですけど、大学全体での授業スキルの共有っていうのが、必要かな、と思います。

 大学が、小中高と大きく違うのは、他の先生の授業を見る機会がないんですね。で、小中高で例えば研究授業みたいな、他の先生がどういう授業をやっているか、みんなで見学する機会ってありますよね。一方で、大学は基本的にそうした機会がないんですよね。だから本当は、学内の先生に公開した方がいいとは思うんですけどね…笑。
 なかなかこれも、やっぱりみなさん忙しいから笑。たぶんね、そもそも見せたくないっていう先生が多いと思うんだけど。ただ、やっぱりそういったことも必要じゃないかと、一時期BASEで他の先生の授業を見に行ってみるという企画をしたことがあるんですが、やっぱり色々難しくて立ち消えになっちゃったんですよね笑。1年、2年位やった気がするんですが。でね、まあなかなか実際、僕らも難しい…だから今回、学生さんの中からそういうのが、出てきたっていうのは非常に嬉しいというか、大変いいことだと思いますね。
―すみません、いえいえ烏滸がましい活動で… あんまり私ばかり喋ってるけど、まあ、そういうことを考えてやってます。
―いえいえ!目から鱗落ちまくりです(゜Д゜)! ただ確かに、授業改善の課題で言うと、やっぱり大学の先生方が授業のやり方を教わる機会がないっていうのが大きいかな、というのは私も個人的には思っています。それで、今回の活動でこう手探りで授業づくりをされている先生方にある程度ノウハウだったりをベテランの先生や分かりやすいと評判の先生方から共有いただけたらな、と思ってます。


斎藤隆文先生の「授業百景」vol.2はここまで!
続いては、斎藤先生の授業の基本的な構成や自習課題について詳しく教えていただきました。
「授業百景」vol.3はこちら! 
斎藤先生の経緯が気になるよ!という方は「先生ヒストリー」へ!


* ステップ… 科学技術短期留学プログラム(短プロ・STEP)。海外の姉妹校から東京農工大学に1年間(10月開始、9月修了)、留学生を受入れるプログラム。毎年、ヨーロッパ・アフリカ・北米・南米・アジア諸国から20名程度の留学生を受入れ、日本語や日本文化の教育や研究室での研究活動を行う。 http://web.tuat.ac.jp/~icenter/en/exchange_program/step.html

※ 授業の形式等はインタビュー当時やアンケートの回答時と変わっている場合があります。何卒ご了承ください。