斎藤隆文先生
~発想やわらか、数学はどこにでも~
斎藤隆文先生の、今に至るまでの経緯について詳しく教えていただきました!
研究者になる道は時代の風に吹かれて
―続いて、冒頭に伺ったことも関連するかと思うのですが、現在までの経緯をお聞きしていきたいと思います。概ね修士以降はどのようでしたか?
最初は修士出たらどこか就職するつもりでいたんです。けれども、修士課程に入ってやっぱり研究が楽しくなって、続けてドクターに行きたくなったという感じですかね。
―それで、博士課程をとって、NTTへ行かれたんですか? 実はとれなくて笑。満期退学でNTTに入ってから、一応3年間は博士課程を取る権利があるので、それで書き上げて取りました笑。
―そうなんですね! 今と違って昔は、ドクターを出ても研究者になる道が結構色々あったんです。大学の助手になるのも今に比べたら競争がそんなに激しくなかった。国の研究機関でも、けっこう研究者を採用していたんですよ。
企業もNTTだけじゃなくてね、大体大手の企業はそういう基礎的な研究を研究所も構えて結構やってました。だから、ドクター進むってことに関しては、それほどなんていうかな、恐怖心が無かったですね。なんとかなると思って笑。
今だったらかなり覚悟決めないと、ちょっと難しいかもしれないですね。
―難しいですね(*_*)。 今は本当に、ポスドクのポストはもういっぱいあるんですけどね、落ち着いて研究できる環境、ポストが非常に減ってるので。とはいえ、研究者や技術者として国際的に活躍するには学位が必要なので、学生には積極的にドクターに進学してほしいんですけどね。
―難しいみたいですね。農工大も研究大学としてドクターを育てていきたい、いかないと、という状況がありつつ、学生は進路を危惧してるなど色々な状況があると。 ええ。
―博士課程の後にNTTに入って、教育系のプロジェクト、に携わるようになってから教育について考えるようになったという感じですか? その教育系のプロジェクトをやる前からも、専門的なことをやってるにも関わらず、基礎が身についてない若手がいるっていうのはちょっと気になっていたんです。で、なんでなんだろう?ということは、僕はずっと疑問でした。そのことがやっぱり今に繋がっていますね。
じゃあ具体的にどう教えたらいいかっていうのは、そういう教育関係のプロジェクトをやって、いろいろ勉強になったところはあります。
―そうなんですね。その後、NTTから農工大にいらっしゃったんですね。 NTTは、私が入社する2年ぐらい前に民営化されて、それまでは電電公社っていう国の機関だったので、もうほとんど公務員に準じたような待遇だったんです。けれども、それが民営化されて、やっぱり段々それまでと違って、ちゃんと収益を出すっていうことが重視されはじめる。だから基礎研究というよりは、将来の事業につながる、会社の稼ぎにつながるようなことを何かやれというのが、どんどん強くなってきたんですね。で、それもあって、ちょっとそのうちどこか大学出たいな笑、と思ってたところに、たまたま農工大で公募があったのでそれで飛びついた、という感じです笑。―そうだったんですね(゜゜)笑。やっぱり企業というか、民営化ってそうなっちゃいますよね。収益を出すことは企業なら必要で、良し悪しはいろいろだと思うんですけど。 まあ、NTTでも基礎研究は今でもやってるんですよ。ただやっぱり昔に比べるとうんと、縮小されてますよね。
数学演習の題材は、相撲とキャッシングシステムと…
―農工大に赴任されてからはすぐに授業を持たれましたか? 9月に着任して、後期の始まる10月にはもう授業を持ってましたね。
―着任当初からバリバリ授業できた感じですか?それとも… まあ、とりあえず何とかなってましたかね笑。やっぱりそれまでに、一応そういう問題意識を持ってたので、逆にやりやすかったかもしれない。こういうのをちょっとやってみたいというイメージがあったので。
その当時、数学演習っていうのを何かやってくれって言われて、それは今の情報数学演習に繋がってるんですけど。中身は特に、何をやらなきゃいけないっていう指定が無かったので、じゃあちょっと自分で好き勝手に笑、問題意識を感じているところをやろうと思ったんです。
いわゆる理論を実際の問題に応用するっていう観点で、数学を見直すというか、扱う内容は高校でやったこととか、大学1年でやるようなすごく基本的なことなんだけども、それをどう使うかっていうトレーニングに特化した演習をやってみようと思ったんです。科目名は変わっていますし、細かい修正も加えていますが、中身としてはその流れで、もうずっと今に続いています。
―なるほど!
例えば、なんかいろいろやるんですけど、例えばスポーツと数学とか。相撲でね、最後優勝決定戦になった時に、2人残っていたら2人でやればいいんだけど、3人同じ勝ち数で並んだら、巴戦というのをやるんですよね。であれが、実は不公平なシステムだっていう笑。
―え!そうなんですか? 要するに、3人の内2人が対戦して、勝ち残りでどんどんやって、2連勝したらその人が優勝なんです。最初の組み合わせはくじ引きで決めて、2人がまず対戦するんですけど、その残ってる1人の人が実は不利になるって、これは確率的に計算するとそうなるっていうような笑、まあそんな話をしたりとかですね笑。
―そうなんですね!へえ…! あとは、お金の話ですよね。例えば、今はもう預貯金って利息はほとんどつかないですけど、いわゆる複利計算って利息が利息を生んで、っていう話をしています。逆にローンを借りる、住宅ローンとか将来借りるときに、こういう風に考えるんだよとかですね。であと、クレジットカード借りるときは、○○払いは絶対やっちゃダメとかね笑。
―ああ(*_*)笑。もう、あれですね、全国民が履修した方がいいですね。 笑。
〇おまけ…インタビュー終了後
―これはなんですか? これは、学生実験で解像度の説明のために使ったんです。実際の写真をドット絵のようにして、その通りにこのアクアビーズを並べて、この正方形のタイルのようなものを全て並べると一枚の絵になるんですね。
―へー!面白いです!
―この凹凸のある板は何ですか? ちょっと、横から見てみてください。
―おお! 90度回転させてみてください。
―おおお!これは、面白いですね。 立体的に彫刻してあるので、見る方向によって見えるものが違うんです。
―なるほど!!最近だと、昆虫の羽も物理的な構造によって色んな色が出せる、それを工学的に再現できるかもっていうニュース見ました。 構造色というのも近いですね。これは、例えば、駅の地面を見た時に、一枚の表示でどの方向から見るかによって、伝える情報を変える事ができるとか、そういったことに応用できます。
―そうやって使うんですね。技術と合わせて発想や使い道も色々考えないとですね。
漠然としたイメージになりがちな数学を具体的な現実の問題へとリンクさせていく実例を自由自在に引き出す斎藤先生の授業、やわらかな発想と教育についての分析に、目から鱗が溢れました(゜Д゜)。コンピューターが活躍するからこそ、起こりうるバグに気づくための手作業での演習をする、評価のしやすい満たす・覚える学びに加えて、 正解のない問題に答えを出すための発想を伸ばしたりリンクさせる学びを評価するため加点式を取るなど、じっくり反芻したいお言葉がいくつもありました。
「先生大図鑑」#19 はいかがでしたでしょうか?
最後まで読んでいただきありがとうございます。次回もお楽しみに!