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旧授業百景

授業はLIVE🎤 教科書には書いた人の伝えたいことが、講義には自分が伝えたいことを vol.1

2020.04.09

「授業百景」第8回は、覚えることを次々捨てていく?!軽やかな語り口で物理の基礎を教える村山能宏先生の特集です!

村山先生の授業について、学生からは以下のような部分が授業の魅力として挙げられていました。

【物理数学Ⅰ・連続体物理】
〇ちゃんと授業に関連している話なのに、面白い話をしてくれる。
〇大事なところを独特の節をつけて繰り返し話すので、記憶に残りやすい。
〇計算ミスをしても考え方があっていれば大目に見てくれるので、モチベーションが上がる。具体例が多い。

そんな村山先生の授業づくりの肝を聴いてきました!


(コーノ以下―)本日はどうぞよろしくお願い致します。(村山先生以下スペース)はい。よろしくお願いします。

村山能宏(むらやま・よしひろ)先生
生体医用システム工学科
(改組により2019年度から。2018年度まで物理システム工学科)

前回までのあらすじと次回予告🎬

―早速ですが、今回選ばれた物理数学Ⅰの授業について伺っていきたいと思いますが、15回全体の流れや構成などで意識されていることなどありますか? そうですね、昨日予め(事前に送ったメールでインタビューの)質問項目を読ませていただいて、私自身が凄く意識していると思ったのは、15回ドラマみたいな感じですかね笑。
 そのうえで、一話一話はありますよね。そうすると、15回通して、学生さんに伝えたいことって何かな、と。であとその中での一回一回、今回の第1話では何があったか、第2話では何がっていうのは、もちろんそんなにうまい具合には行かないですけれども、そこは一番に、授業を組み立てるときに意識する部分ではありますかね。
―15回ドラマですか(゜゜)! 物理数学Ⅰだと、どんなメッセージになるんですか? 物理数学Ⅰの場合、一番のメッセージはですね、物理の面白さを感じてもらえるための、そのために数学がやっぱりどうしても必要になると。で、そのちょっとした算数でつまずいて、物理の面白さが分からないというのは、すごくつまらないし、もったいないよと。だから少しでもそういう物理の面白さ、っていうのに気付いてほしい。で、それを知るための道具を伝えるという感じですかね。―1話ずつでは、どのような感じですか? もちろん、その物理数学Ⅰっていうのは、うちの物理システム工学科でどういう科目にも通ずるような、基礎となる物理に関する数学というのを身につけてもらいたいというための科目なので。そうすると最低限、こういうこと、こういうことっていうのは知っといて欲しいよっていうのがあるので、それを15回分けるんですが、やっぱりその中でここはここに繋がってくるみたいな、布石はちょっとあったりしますかね。ある程度、繰り返し繰り返しっていうのを、伝えないとなかなか。
 それは自分を振り返ってもそうなんですけども、1週間経つと「先週の話なんだっけ?」っていう風になるので。そうすると必ず、授業のはじまりの時には、前回はこれこれこうだったとかっていうのからスタートはしますかね。 およそ5分くらい、長短はありますけど。  そういう意味では、ほんとにドラマっちゃドラマですよね。前回はこれこれこれだったので、今日はこれこれこういうことについてっていう風にスタートして。で終わった時には今日はこれこれこれなので、じゃあ次回は、っていうのは笑。
―予告ですね笑。 まあそうですね笑。それは繋がってきますかね。

―ちなみに履修している学生さんの数は何人ぐらいですか? 必修科目なので、うちの学科だと1学年60名くらいですかね。大体、どの科目も60名ぐらいです。

授業はLIVE!

―出席は取られていますか? その辺もですね、基本スタンスになってくるのかもしれないのですが、大学なので、基本的には、まあ学びたい人はどうぞと、別に学びたくない人は結構です、と。ですので、特にあらわに出席を取るということはしてはないですね。
 その辺は皆さんどうやっているのか、あるいは大学としてどうなのかっていうことは分からないですけど、私自身は今お伝えした通り、学びたい人が学びたい場であって、もちろん学生さんはそういう形で授業料も払っているわけだし。これも心構えなんですかね、私もよく講義の一番最初に、どんな講義でも担当するのが初めての時には言うんですけど、私自身は、講義はLIVEに近いかなと。―LIVEですか! はい。自分は音楽が好きだし、舞台とか見に行くのも大好きだし、スポーツ見に行くのも好きですけれども。じゃあLIVEって何かっていうと、時間と空間を共有する場だと。そうすると、物理っていう学問も、授業もそうなんです。
 なので、共有できない人はどうぞ出て行っていいですよと笑。別にそれで怒ることも何も私はないので。で、例えば学生が寝ているっていうのは、こっちの話がつまらんから寝てるんだろうというのは、まあしょうがないとは思うんですけど。ただ、授業に来て、他のことをやっているとか、そういうのがあると…それは、だってライブ会場言って隣の人が本読んでたらそれは周りの人は引くでしょう、っていう感じで笑。
―そうですね、空気感が笑。 はい。ですので、まあそういう人は一旦出て構わんよ、と。でまた、来たかったらどうぞ、と。いつでも出入りは構わんけれども、授業と他のことはしない、そこは約束事としてそうしましょうということは、皆さんには最初に伝えていますね。
―なるほど、最初にですね。 そうすると、学生さんの顔見ていて、どうも伝わってないな、とか笑。あるいは、なんかやっぱり、暑い日は暑いし、寒い日は寒いし、その場の雰囲気ってどこかあるので、ちょこちょこ、その場の空気を感じながら進めるっていうのは常にありますかね。

学びが進むと身軽になる

―他の先生からの質問があったのですが、基礎や暗記物を楽しくする工夫ってありますか? なるほど、後者の暗記は、物理という科目の特殊性があると思うんですが、物理の場合はどんどん今まで覚えたものを捨てていく作業だよ、って言ってます笑。すごく基本的な考え方から、いろーんなものがどんどん広がっていくっていうタイプの学問なので、ホントに、知っとかなきゃいけないってことって物凄く少ない、でそれをどう考えていくかってことの方が重要ですよ、と。
―面白いですね。私、高校で物理選択でした。で、一番覚えることが少ないからっていって、物理を選んで笑。でも、覚えたことを捨ててはないですね、高校までは。 高校だと、どうしても、まだ算数の知識が足りなかったりするので、全部基礎からっていうのはなかなか難しいんですけども、そういった算数の技術もちょっと身についてくると、じゃあこれはこういう風にして考えたら、じゃあこの算数解けばこう出るのかなとか、なんかそういうのを考えられるようになるので、だから、覚える式はどんどん無くなっていきますよと笑。
 基礎については、これは私もいろんな人の意見を聞いてみたいなというのもありますけど、たぶんまあさっきの現実の問題というところと関係してくると思いますが、おそらくいつか役に立ちますよとか、これは何でも重要ですよ、というのはほとんど伝わらないし、なかなか意欲も持たれない。そうすると、やっぱり現実のどこかで繋がっている、そのトップダウンとボトムアップの兼ね合いは常に必要なのかな、というのもありますかね。

分かりやすすぎても…

―例えば…どういったものがありますか? まあ、連続体のものだと…どこかに、棒があってこれに力をかけると曲がりますよとか、じゃあそれ、どれぐらいの力をかけたら曲がるかみたいな話があるんですけど、そのための式なんかがあるんですね。でもそれも、棒の話なので、別に面白くないと思って笑。
 ただ、そういう話がどういうところに繋がるかっていうと、なんで「竹の中は空洞なのか」とか、あるいは、地球上に100mの木がないのはなぜか?とか。結構、そういう木ってないですよね。
―(゜゜)!面白いですね!なんで100mの木*がないのかって笑。それは物理が関わってるんですか? それはやっぱり関わってきますね。ほんとにベーシックな部分は、そういった力学の問題として捉えると、それなりに説明ができるよね、っていうこととか。特に私、そういう生物とかも好きなので、っていうのもあると思いますけれども。
―確かに、木が好きじゃない子は、ああ100mの木がないのか、へーってなっちゃうかもしれないですね…。 東京タワーって倒れづらそうな気がしません?こう、(足が下に広がった錐形のジェスチャー)。一方、スカイツリーの場合、すぐ倒れそうに見える。
―確かに、長細くて風で煽られそうです。 なんでだと思いますか?ちょっと不思議じゃないですか?
―なんで、ですかね??笑。上の方で揺れて重心を取る何かがあるとかですか?? まあ笑、倒れないメカニズムって、本当にいろーんな工夫があるんですけれども、でもやっぱり、「なんでかな?」とか笑、そういう疑問をちょっと感じたりとか大事ですよね。でもやっぱり頭重かったら倒れちゃいますよね。
 でも土台がしっかりしてたら、なかなか倒れないしとか思うと、じゃあスカイツリーの下にどれだけ土台あるならいいのか…。ものが曲がるってどういうことなのか、とか、重心がどこにあったら倒れづらいのか、とか。ちょっとしたきっかけで、物理現象と現実にあるものとの関係や対比とか、そういうのが上手い事噛み合うと、ああそういうことに繋がっているのかな、とか思ってもらえるかもしれないですけど。

 まあ、ただ、その反面で、あんまり分かりやすい、分かりやすすぎるのも、ちょっとつまらないなって気もどこかでありますね。なんでしょうね、「なるほどなるほど」ばかりよりは、「なんでだろう?」が多い方がいいのかなと。それも人に依るのかな…。
―確かに、分かった気になってしまうというのもありますし、自分で一山超えたみたいな感覚が後々活きるということもあるかもしれないです。 そうですね。その辺のバランスなんじゃないか、と。うまいこと、そこは私もそこまでは行けてないですけども、疑問を持たせるには、なんでも分かってもらうとか、伝えるとかだけじゃなくて、問題提起という部分がもうちょっと自分自身にあってもいいかな、という気はしますかね。
 まあ、研究室とか入るとそっちの方が多いでしょうからね。


村山先生の「授業百景」vol.1はここまで!
続くvol.2では、講義ノートや学科での取り組みなどについて教えてもらいました。

vol.2はこちら

* 100mの木…世界一高い木は、アメリカ・北カリフォルニアのレッドウッド国立公園にあった115.5mと記録されている。同地域のレッドウッド海岸には平均樹高80mのセコイアが群生している。→アメリカにあって日本にないのはなぜなのか、という疑問提起にも繋がりそうです!…日本一高い木は京都の花脊(はなせ)、大悲山(だいひざん)国有林内の樹高62.3mの杉の木。

※ 授業の形式等はインタビュー当時やアンケートの回答時と変わっている場合があります。何卒ご了承ください。