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旧授業百景

知ってるぞ、は分かってる? &自分との対話が学びを深める☕ vol.1

2020.05.14

第10回は嘉治寿彦先生の特集です!

嘉治先生の授業について、学生からは以下のような部分が魅力として挙げられていました。

【物理学基礎Ⅰ】
グループで議論させる点。
〇一回の授業中に講義内容の応用について、2~6人のグループで議論する。
〇ちゃんと考える時間を与えてくれるので、聞くだけにならない所が良い。

そんな嘉治先生の授業づくりの肝を聴いてきました!


(コーノ以下―)本日はどうぞよろしくお願い致します。(嘉治先生以下スペース)よろしくお願い致します。

嘉治寿彦(かじ・としひこ)先生
化学物理工学科(2019年度より)

―では早速なのですが、今回選ばれた物理学基礎Ⅰの授業についてお聞きしていきたいと思います。全体の流れとして何か意識されていることなどありますか? 意識しているというか、まあ中間と期末試験の回があって、それ以外の回は、授業で毎回ディスカッションできる時間を取るということをしているんですけど、なかなか時間の配分に苦しんでますね笑。
―そうなんですか笑。授業1コマ90分だとどのような時間配分ですか? 90分あったら、正確に時間は決めてないんですけど、雰囲気を見ながら話の区切りがいいところで、15分ぐらいディスカッションをします。何か題材を黒板に書いてディスカッションしてもらうこともあれば、プロジェクターで映像を見せて、「この映像を見て考えたことをディスカッションしてください」っていう場合と半々ですね。
―題材はどのようなものですか? この物理学基礎Ⅰは力学なんですね。で、力学の検証というのは、身近でいくらでも体験することができるんですけども、一方で力学の法則自体を必ずしも実感してない人が多いんですね。なぜかというと、必ず私たちは普段重力がある中で生活してますし、摩擦もありますね。なので、いざ実感するといっても分からないと思うんです。しかも、漫画とかアニメやゲームなどを物理的な視点から見ると、全然違う法則使ってる場合もあったりしてね笑。

力学なら…宇宙ステーション🌌?

 そうしたときに、より単純な力学の理解っていう意味では、宇宙ステーションの映像が結構いいです。そういった地上で普段生活していると実感しにくい力学の法則を、宇宙ステーションで見せようっていう取り組みを、長年いろんな国の宇宙飛行士の皆さんがやってまして、そういう公開されている映像を探してきて見てもらうときもあります。いつもではないですが。

 例えば、慣性の法則って一度でも力学を履修された方は知ってると思うんですけど。―進んでると進み続けるよ、急に止まろうとしてもすぐには止まれないよ…みたいな法則ですかね。 はい。それって、もう充分納得してます?当然のことと思ってます?―うーん…なんか地球が回っていて、その上にのっかっていて…わかんないです笑。 なんか、分かんないですよね。あと、作用・反作用の法則とかって納得してます?―作用・反作用は、好きです笑。 好きですか笑。なるほど。

―どんな風に説明されるんですか。

 説明というか、説明にも結局限界があって、口でいくら言ってもなかなか伝わらないんです。特に力学なんて高校でほとんどの人が習ってるんですよね。ただ、一部習ってない人もいるから、そこはややこしいんですけども。でも、ほとんどの人は習っているから、もう聞いてる話だと思ってるわけですよ。

 学生は「知ってるよ」っていう姿勢で、力学の法則について言い方を変えて言ったところで、じゃあ改めて、もしかしたら知らないことを話してるかもって思ってくれるかっていうと、なかなか難しいですね。
―確かに理系であれば、公式見覚えあるなあ、っていうテンションですね。 だから、とりあえず見たことないものを見てもらうっていうのと、考えてもらうっていうのを重視していて、その結論がどうなっているかっていうのは、あんまり気にしてないです。感想程度でもいいかな、と思って「気軽に見てください、気軽に思ったことを周りの人と話してください」と言っています。一応、論点を出す時もあるんですけど、動画を見せる回ではあんまり出さないですね。

例えば、こんなの(宇宙ステーション映像)ですね。

『 Here we are the International Space Station. We’re doing … we’re showing that the space station is actually accelerating away from us … 』

https://www.youtube.com/watch?v=cmHamp0IIyE

―英語で話されているのいいですね。ふっふっふ笑。 まあ、内容を面白いと思ってもらえれば、例えば「動画を見て気づいたこと話してください」でも、結構十分だったりするんですね。―なるほど笑。雰囲気ものんびりしていていいですね。

(宇宙ステーションの中で、宇宙飛行士があっちへ行ったりこっちへ行ったりくるくる回ったり)

―楽しそうです笑。これは、何を何してるんですか?

 これは、慣性の法則を実感してみようみたいな。普段、宇宙ステーションは中がほぼ無重力の状態なので体が浮いていて、宇宙ステーションが加速しだしたら、体は慣性の法則でそのままなので、宇宙ステーションから見ると体が逆に加速して飛んでいくという。
―へええ、おおお! 面白いですね。 こういうの見せると、「ああ、慣性の法則にやっとイメージがついた」って人もいれば、もっと細かい所で、最初どう動いたのが、その後どういう動きが続いてさらにどうなるのか、っていうのを話し出す人もいて、人それぞれ違いますね。頭では分かってるはずなんだけど、こういうことかっていう新しい気づきがあるかなと思います。
 例えば、映像見せる前に、「無重力ってどんなこと起きると思いますか」って聞くんです。何が起きると思いますか?―よく見るのは水が浮かんでくっついたり離れたり、そんな感じですか。 そうですね。それも、こないだ動画で見せたんですけど。この人(長い髪の毛の女性)が無重力に行くとこうなる。

ぜひ動画↓もご覧ください!

【 https://youtu.be/fHQU92nGE1Y?t=31 】

【 https://youtu.be/fHQU92nGE1Y?t=19 】

―すごいですね笑!

 ストレートヘアーってこうなるんです。当然分かるよって頭の中で思っていても、現実はもっと身近に違うことありますよね。
―確かに、想像できてなかったです。漫画で宇宙空間が描かれていても女の子の髪は下に降りてるイメージです笑。こんなにやんちゃに広がってないです。

知ってるよ、をひっくり返す

 今の動画のような、髪の毛一本でも簡単に体が動きますよって、それ自体に意味があるのかは、正直あまり分からないですけど、「知ってるよ、聞いたことあるよ」っていう思い込みが「いや、そうでもないぞ」って一旦ひっくり返ると、知ってるつもりの話でも聞いてもらいやすい、というのでやっています。

 特に、この力学の授業は大体の部分を高校でカバーされちゃってるんですよ。ただし、出てくる数式が難しくなってる点と、高校の授業では個別にこの項目はこういう式です、この項目はこの式ですって出てくるのが、大学の力学であれば、全てが繋がってこの式からこういうのが求められるからこういう法則が出てきますって、そういう風に全部説明できるのが、違いなんです。
 でも出てきた結果はみんな知ってるんですよね笑。
―確かに…「難しい式なんやかんやで、最後に知ってる公式出てきた」ってなるんですね。 ええ笑。なので、結局知ってると思い込んで、最後までこちらの話が全く通じない人が、最初に力学の授業受け持ったときに、一定数いたんですね。だからといって、学生に習ったはずの概念をどのくらい知ってるかな?って聞いてみると意外と理解が微妙だったりするんですよね。
―…そうですね。私は物理選択だったんですけど、ほぼ飲み込む、みたいな感じで乗り越えてきた記憶があります笑。概念の部分は、しっくり理解して覚えられた項目もあれば、何だかわかんないけど式だけ覚えたぞ、みたいな。 そこ、両面からどうにかしたくて、特に概念に関しては、自分自身がいろいろ見ていて、一番分かりやすいと思ったのが今みたいな動画です笑。私自身、見てて、「そっか!そうだよな!」って思ったんです笑。直接、力学とは関係ないですけど、発見や気づきがあって面白いと思うんです。
―面白いです笑。 なので、そもそも知ってると思っていることさえ、意外と知らないよっていうメッセージを伝えてから、本来知らないはずの話をしようと思ったんです。


嘉治先生の「授業百景」vol.1はここまで!
続いては、ディスカッションやアクティブラーニングなどについて詳しく教えていただきました。
「授業百景」vol.2はこちら

※ 授業の形式等はインタビュー当時やアンケートの回答時と変わっている場合があります。何卒ご了承ください。