農工大生はアーティスト!授業を通して、Innovationに気づく力をトレーニング💪vol.1
第13回は千葉先生の特集です!
千葉先生の授業について学生からは、以下のような部分が授業の魅力として挙げられていました。
【有機合成化学】
〇具体的な反応や、生物活性物質を例に挙げて、電子の動きでそれらを説明することで、ただの暗記にならず、思考を促していた。
〇出席カードに問題を一問解かせ、次回冒頭でそれに触れることで演習と復習を行っていた。
〇講義内容以外の事(実際の社会情勢や今求められている研究者像の話、研究の進め方や向かい合い方など)の話も大変興味深く、繰り返し「あなた方は大変素晴らしい人材だ」と言って、やる気を引き出すことで、勉学・研究へのモチベーションを高めていた。
そんな千葉先生の授業づくりの肝を聴いてきました!
(コーノ以下―)今日はどうぞよろしくお願い致します。(千葉先生以下 スペース)どうぞよろしく!
電子遷移とは…ではなく、ジーンズの話を
つい先ほどまで、1年生の有機化学Ⅰの講義を行っていました。ちょうど同じような授業が続いて、退屈する気持ちも出てきそうな時期だから、サイエンスは楽しいぞ!!と思ってもらえる緊張感のある真剣な90分を、気合いを入れてやってきました。瞬間、瞬間が勝負です!
―アツいですね…! そうですよ!サイエンスは楽しいじゃない!(目がきらきらしている)
あ、今日はちゃんと話の順番があるんだよね。
―はい笑。では授業づくりに関して伺っていきたいと思いますが、授業をするときに心掛けていることなど教えていただけますか。 はい。私としては、自分が話している内容に学生がどれくらい関心を持っているかということが最も大事です。学生たちが言葉にはしていなくても、できる限り感じ取るようにしています。
まず、90分は聞く方の立場にたってみるとかなり長いですよね。自分でも集中力はそんなには長くは続かないでしょうから。例えば有機化学なら教えないといけないことは沢山ある、けれど、具体的なものに結び付けることで、それらが展開していく。理論の説明を思い浮かべるだけでは、難しくて嫌だなーって思う。例えば、「電子遷移」って言われてどう思います?
―漢字は浮かびますが、何が起きているかはわからないですね(笑)。 それをね、電子があれで構造がこうでと話すより、ジーンズの青はそこに含まれる成分の電子遷移によって青色に表れている、と言われたほうがなんとなく興味が湧きませんか?
―グッと身近な話題になりますね。 そう!それで、ジーンズの青色と電子遷移の関係が分かるようになると、それを応用して、ほかの化粧品とかの赤色や黄色はどうやってその色になっているかという仮説が立つようになる。既存のことを学ぶだけだと面白くなくなるけど、それが常に、これがこうならあれはどうなのだろう?って次々に浮かぶようになると面白い。
例えば、化粧品会社で仕事がしたいとか、将来の漠然としたイメージでも、赤色はこんな原理で赤いから私はそれをああしたい、こうしたい、とか具体化できる。そういう考え方が身につくような仕掛けを授業にはいっぱい作る。
どうですか!!
―む、難しくないですか。 難しいですね。
これ(電子遷移の模式図)だけ見ていたら嫌になっちゃう、うわー難しそう!って。でもそれって絵具とか、食べ物ならイチゴがなんで赤いとか、みんな関係するのですよ。そうすると、漠然と将来化粧品会社行きたいなとか、食品会社行きたいなって言っていたものが、もっとこういうほんとの力をつけた形での思考に変わってくる。楽しいですね、やっぱりこれは…笑。
―それは、素敵ですね笑。
あと心掛けていることは、授業中に教科書はあるけれど、それは自分ではあまり読まない。教科書を後で自分が読めば、「なるほど、先生が言っていたことはこれだったのか」とわかるような仕掛けにしておいて、話を進める。
ただ、教科書とかの絵とか表、図があるでしょ。それは使うと学生はついていきやすくなる。だから教科書の○○ページの真ん中の絵だよっていうと、「なるほど!」ってなるでしょ。で、そこに書いてある文字の説明は、だって読んだ方が早いのだから。後で読めばわかるように、その意味合い、というか基本的な考え方を喋っていくわけ。そうすると、まあ農工大生だったら絶対に理解できる。―信頼していますね。 絶対分かるはずなのだけど、問題は、なんだか難しそうだとか、それを勉強してどのような意味があるのだろうかとか、別の要素が壁になってしまうのではないかと思う。
勝負の90分🔥
それで、私は授業の随所で何のために学ぶのかという話をよくする。これ、学びの目標設定って言うのだけど。
まあ、私自身の答えは、要するに究極の目的は「自由を獲得する」ということなんですよ、学びによって。それは例えば、自由に真理を探究することや、頭の中は常に自由だから、自由な頭を使って、いつも自分の興味あることを考えていくということこそ、生きる意味、要するに自由に生きているということになるでしょ。すごくハイレベルな楽しさが提供される。そうすると、学びが楽しくなると思う。
その思考のプロセスを私は授業中に教えます。これこそまさに、授業で最も必要なことなのです。
基本的に学ばないといけないことは教科書に書いてある。だから、それをくどくど詳細に全部説明する必要はない。逆に嫌でしょ。
―そうですね笑。ただ読むだけでは、家で読むのと変わらないなと思います。 そうでしょ。自分でしっかり読んだ方が早い。
―その先ほどの、教科書をほとんど読まないっていうのは、ほとんど実践とかエピソードトーク、ということですか。 そう。その授業って結構高度ですよ。だって、教科書の項目を見た段階で、自分が喋る時にエピソードとか、学生が興味を持つような余計な雑談とかが全部、瞬時に構成されてなきゃいけない。それは原稿なし、原稿があったらおもしろくないです。
―それはまた、千葉先生のリズムというか。 そう。だからこれは、勝負感があって、今日ほんとに90分喋れるのだろうかって思いながら教室に行く。
―えっ、そうなんですね! だって原稿がないんだもん。―では、授業の流れとしては、90分先生が話し尽くすという感じですか。 話し尽くしていますね。教科書を開いて、見つつ関連するトピックをその場その場で話します。あと、出席カードを回して、回収してという感じです。
授業は瞬間瞬間が勝負。学生への動機づけがあって、良い授業ができると「今日も何とかできて良かった…」って思う。授業は大体90分で教科書のここまでやろうって決めてやる。あと結構、授業のことって教科書の説明よりも先生の雑談の方が一生覚えていたりしない?だから、その雑談の中に忘れてはいけないことを言うようにするとか、伝えたいメッセージを入れる。そういうのをノートに書き留めてもらったり、キーワードをピックアップしてもらったり。
90分間はほとんど話しとおす。話しっぱなし。
スタンフォード式の衝撃
ただ、反省点もありますよ、もちろん。改善したい点というのは、双方向のやりとりがしたいというのはある。
かつてスタンフォード大学のビジネススクールの授業を見に行った時、とっても驚いた!そこでは、学生がみんな、これくらいの(両掌サイズ)カードを机の上に立てていて、見るとファーストネームが書かれている。30〜40人の教室で、先生が目についた学生の名前を呼んで対話が始まる。しかも、その30〜40人の誰かが発言したら教室全体に聞こえるようにマイクが天井から何本も下りている。これはびっくりした。
あと、先生のやり方も凄かった。例えば、先生が一通り説明してから「ところでこの方法は合っていると思う?間違っている?どっちだと思う?」と問いかけて、どちらかに挙手させる。当然数十人がどちらかに手を挙げている。そして、サンプルとしてYesとNoにそれぞれ手を上げた学生を一人ずつ選んで名前を呼んで、それぞれの意見を聞いていく。これは、すごいと思った。100人でもできるんだろうな、と。学生も授業中、頭を使っていることがよくわかる。
一般には授業中に頭は止まっていることが多いでしょう。やはり緊張感が必要だね。マイクがなくても、声を少し大きくして、とか言えばできるんだけど。
―双方向の授業はやはり難しいですか。 まず、学生が発言したがらないかな、日本の文化から来ていることで、仕方ないのかなと思います。あと、名前のカードがなくても「そこの3列目の君」とか言ってもいいならやってはみたいですね。でも、本当は名前を呼ぶ方が、ずっといい雰囲気になりそう。
―いいと思います! 授業でも、教壇から近い席の学生には「どう思う?」と聞いてみたり、「~だと思う人?思わない人?」と聞いて挙手してもらったり、その理由を教えてとかその程度はします。
―他の大学の授業を見に行くことがあるんですね。 多いですよ!海外の大学に見に行くことが多いです。(先生ヒストリーに続く)
…千葉先生の「授業百景」vol.1はここまで!
化学や農工大生について、千葉先生の発想に驚いたvol.2はこちら!
※ 千葉一裕先生は2020年度より、東京農工大学の学長職に就任されたため、担当されていた授業は他の先生が受け持つことになります。