古宮嘉那子先生
~好きな「言葉」でいきていく~
第42回は知能情報システム工学科の古宮嘉那子先生にインタビューしました。
高校時代から自然言語処理研究の将来まで、盛り沢山な内容となっています。ぜひ最後までご覧ください!
古宮先生の授業についてはこちらから。
〈プロフィール〉
お名前:古宮嘉那子先生
所属学科:工学部知能情報システム工学科
研究室:古宮研究室
趣味:読書・ミュージカル観劇
文系が得意だからこそできること
ー先生はどうして研究の道に進もうと思ったんですか?
そもそも大学に進学したのは親の意向なんですよね。小さいころから研究者になるような教育を受けてきました。親が研究者で理系に進むべきだといった教育でした。ずっと文系の方が得意だったんですけどね。そういう消極的な理由で大学に行きました。
ーでもそういう人も多い気がします。
なんのために大学受験しているかわかる人なんてそんなにいないと思います。でもやったことが後で役立つことはあるし、今つまらなかったとしてもそんなに絶望する必要はないよと伝えたいですね。高校生の時にこれといってやりたいことがなくても、突き進んでいったら実になることはあると思います。私も大学には消極的な理由で入って、やっていけるか不安でした。だからその分たくさん勉強したら学年で1番になっちゃって、そのまま研究者になって、今は周りに支えてもらいながら楽しく仕事ができてます。
ー僕自身も文系寄りの人間で、この先やっていけるか不安だったのでその話を聞けて安心しました。
理系の研究者になっても論文を書くときに国語力を活かせますし、苦手な部分は共同研究者にお願いすることもできます。情報系の研究者になるには「数学、コーディング、英語、文章力」の4つが重要だと思っていて、そのうちいくつかが得意であればさらに良いですが、全部が得意でなくても何とかなります。これ以外にも文章を書くのが得意でなくても説明が上手とか、コミュニケーション能力が高いとかそれぞれ活かせる事があると思います。人によって得意な部分が違うので共同研究者とは助け合っています。
アウトプットしていく重要性
ー研究者として大切にしていることはなんですか?
評価される側に立つということですね。
ー具体的にはどういうことでしょうか?
どんな人も勉強するってことは大事だけど、何か勉強し続けるとまだ足りないまだ足りないと思いますよね。何か学べば学ぶほど周りの人の凄さがわかる。そうなったときに、完璧になってからアウトプットしようとすると、それはいつまでもできない。ここまでわかった、こんなことできましたよっていう、自分から見たらちょっとしょぼいぐらいのことでも、「あのどうでしょうか?」というふうに外に出してくっていうことは大切だと思います。
ー「知識を蓄えるだけでなく意識的に表現をする」ことは大切ですけどなかなかできないことでもありますね。
農工大の学生さんはみんなおとなしめだと思うし、自己評価もそんなに高くない。他の大学のポスドク(注1)もやっていましたが、他大学の学生と比べて何が足りないかと言えば、どこまでGreedyかっていう問題かなと思う。私もいつもホームランが打てるわけじゃない。そういうときに、「今できるのはこれです。これが今の私の力だけど、足りないことがあれば教えてください。」というふうに外に出せるかっていうのがすごく大きいと思っています。ベテランの先生が若手の先生からでも学ぼうとしている姿を見ると頭が下がりますね。年下からでも吸収してやろうというバイタリティを持っていたいですね。
好きを追い続ける
ー研究の面白さについて教えてください。
私は本を読むのが好きだし歌を聴くのも好きです。やっぱり、実績や達成度が評価されるストレスがないことの中で、すごく好きなものっていうのが一番楽だし楽しいと思うんですよ。なので、funという意味で楽しいって言ったら、それに勝るものはないですよね。だから、勉強とか研究とか、義務でもあるものは大変なことでもあって、趣味に比べるとただ楽しいだけではないと思います。でも、達成感やら興味やらの観点から見ると、研究はやっぱり楽しいです。あと、文を書くのも好きなので論文を書くのも楽しいですね。
ーそれは昔からですか?
データを分析するのは昔から好きで、何か表を書いて、月曜日はこういうことが多いとかいろいろ分析するのが好きな小学生でした。考えてみるとそれって研究みたいな感じで、何かデータがあったときに、それが何であるのかを考えるのは昔から確かに好きだったんだなと。
ー他にも研究生活で楽しいことはありますか?
国際会議が好きなんですよね、旅行が好きなので。でも好きなものを仕事にするのって難しくて、例えば小説家ならやっぱり職業にするとなると面白いものとか自分の好きなものより、売れるものを書くじゃないですか。そういう意味では2つ目に好きなものを仕事にするといいのかなとは思いますね。
ーこれからの研究の展望について教えてください。
転移学習と意味処理はずっとやってきた研究で、長くやるほど興味を惹かれるので、ずっと続けていきたいなと思っています。あと、昔から漠然と思っていた研究へのモチベーションを言語化してみると、私が興味があるのはいわゆる『電脳』を作ることで人類を理解したいということなのだと思います。自然言語処理は人工知能の研究の一分野です。人間の知能を研究することで、人間を研究しているわけです。人間がどのように言葉を理解しているのか、という興味が根底にあるので、その視点は今後もずっと残ると思います。
ー人間と今ある電脳はどのくらい乖離があるのでしょうか?
思った以上に離れています。言語の分野で機械が人間を超えた例はまだないですが、対話している相手がロボットか人間か判断できないレベルまで実現できているものもあります。でも、現在のシステムはただ統計的にそれらしい答えを出しているだけです。これは昔から中国語の部屋(注2)という実験で指摘されている問題で、コンピュータに理解させるためには正しい答えを返せるようにするだけではダメなのです。理解とは何か、というところから考えていかないと、「言葉を理解するコンピュータ」が作れるか、という議論もできません。まだまだ研究が必要なところです。
ー最後に学生に向けてメッセージをお願いします。
私は高校のときに不安障害が強くて、保健室の住人でした。だから大学でやっていけるか心配でした。仲のいい姉とは別の大学だし、理数系は得意じゃないので。それもあってガリ勉な大学生でした。成人している学生さんでもまだ子どもなところもありますし、精神的に自立できなくて迷うこともあると思います。人生は一度きりということに気づいて自分は何者なのかと悩む人もいると思います。私は体力がなかったからこそ、裁量労働制で自分のことは自分で決められる研究者になりました。色々悩むときだと思いますが、その時答えが出なくてもそのうち答えに出会うこともあると思います。悩みすぎて苦しくなる人は、視点を長くもって、自分に優しくしてほしいと思います。
(注1)博士号取得後に任期付きで大学や研究機関で活動する研究員のこと。
(注2)中国語の会話のマニュアルを持った人に、中国語の質問をして正しいものが返ってきたとしても、中国語を理解していることの証明にはならない。意味は分かっていないけれども、マニュアルにある通りに返している場合にも会話は成り立つためである。チューリングテスト(対話している相手が人間かロボットかを当てるテスト)に合格したからといって、それは、「本質を理解している知能を持った機械である」という意味にはならないというたとえ。
古宮先生の「先生大図鑑」はここまで!いかがでしたでしょうか?
古宮先生の講義について詳しく知りたい方は「「知能情報システム工学特別講義(自然言語処理)」〜コンピュータ×言葉〜」もあわせてどうぞ!
文章:ほき
インタビュー日時:2022年6月22日
※インタビューは感染症に配慮して行っております。
- 古宮嘉那子先生
- 知能情報システム工学科
- 古宮研究室
- 知能情報システム工学特別講義(自然言語処理)