藤田桂英先生
~AIが社会の一員になる時代に向けて~
第38回は、知能情報システム工学科の藤田先生にお話を伺いました。
藤田先生の授業については、こちらから。
〈プロフィール〉
お名前:藤田桂英先生
所属学科:工学部知能情報システム工学科
研究室:藤田桂英研究室
趣味: TVゲーム
もっと賢いロボットを!ロボットの頭の中を作りたい
―人工知能の研究をしようと思ったきっかけを教えてください。
高校時代はロボットに興味がありました。ただ、どちらかというとロボットを作るよりも、「ロボットにこういう動きをさせようかな」とか「こうすると賢くなるかな」と考えるのが好きでした。なので、大学では情報工学の世界に進みました。それから人工知能一筋です。ロボットの頭の中を作ることに興味があったんです。
例えば、ドラえもんとかを現実にできたらいいなと思うじゃないですか。そういうのは小さいころから好きでしたね。
―こんな人工知能があったらいいな、っていうのはありますか?
オンラインで議論するとき、場を回してくれる人がいないとうまくいきませんが、それを人工知能(AI)がやってくれたらいいなと思います。ついでに議論の流れを可視化してくれると便利ですよね。
あとは、秘書さんみたいな、スマホのもっとスゴイ版の人工知能ができたら嬉しいですね。「今日はこれやらなくていいんですか」ってリマインドしてくれたり、「これやっといて」って言ったら勝手にやってくれたり。
今はまだ、細かく指示しなければ人工知能は動けません。一方で、人間に頼むときは細かく指示しなくてもそれなりのものを作ってくれるので、「人工知能もそれくらい賢くなれば楽だなあ」と思います。
AIができること、人間にしかできないこと
―面白いですね。そんな素敵な人工知能がいたら、秘書にとってかわってしまいそう。人間の仕事がなくなってしまいそうです。
「仕事がなくなっても新しい仕事ができるからいいんじゃないか」とよく言われています。仕事は奪われるけれど、なくなりはしないのではないでしょうか。
―どんな仕事が生まれると思いますか?
AIに目的を与えて、その為に動いてもらうことはだいぶできるようになりました。でも、AIは目的自体を作ることができません。研究の目標を決めたり、こういう授業を作りたいと考えたりするのは、人間の方が優れています。このような、目的を決めることに特化した仕事が将来できるかもしれません。
また、表面的にはAIに会話をさせることができても、本質的に意味や背景を理解して対話するのは人間しかできません。例えば、“リンゴ”と言うと、AIは辞書的な意味は理解することができますが、人間のように、形や味をイメージしたり、経験の積み重ねから想像力を働かせたりすることはできません。将来的にもできるようにはならないと思います。カウンセリングや人に何かを教える仕事などは、AIには出来ない部分があります。
―「賢い」というキーワードがけっこう出てきますが、「賢い」って何なのでしょう。
究極の質問ですね。賢さについて考えることは、人工知能という言葉にも使われているように「知能」とは何かという問いにつながってきます。知能というのは、人間しか持たない能力、または人間が特に優れている能力ですかね。例えば、先を読むことや記憶すること、認識することは動物もできますが、人間と比べると能力のレベルが違います。その差が知能なのかなと思います。AIが賢いというのは、その知能が高いということになりますね。結局は性能の高さとも言い換えられてしまいますが。
とはいえ、本当の賢さって、それとは違うところにあるとも思います。違うところというのは、創造する力とか、こっちの方を重要視したいなといった価値基準とか、人間の本当の賢さです。
認識や記憶はAIの方が強くなりますが、創造することは人間にしかできません。AIが小説を書いたら結構面白かったなんて話もありますが、創造しているように見えても本当の意味ではゼロから作ってはいないと思います。言ってみれば、線を延長しているだけ。人間はその線から突然ポンとジャンプして創造性を発揮するので面白いですよね。あと、人間は人工知能を作るようになるなど進化していくのがすごいですよね。
加えて、人工知能の協調といった課題もあります。
話し合って問題を解決してくれる人工知能
―人工知能の協調とは、どんな感じなのでしょうか。
人間同士が協力するときは、自分ができることとできないことを判断して、「ここはあなたにお願いします。わたしはこっちをやります」と話し合いますよね。ロボット同士でも、協調するためにはそうやって調整する必要があります。例えば、机を運ぶとき、普通は真ん中を持とうとします。でも、二体で協調して机を運ぶときは、それぞれ端を持たなくてはうまく運べません。それを勝手にAI同士で調整してもらいます。人間が会話するのに比べて、ロボットが搭載しているAIは高速で通信し、調整してくれます。これを人工知能の協調といいます。
私自身もAIの協調に関する研究に携わっています。荷物運びの話も実際に研究テーマになっていて、例えば、重い荷物を運ぶとき、1台のドローンを大型化させるよりも3台使って協調させたら良いのではないかというテーマのプロジェクトがあります。他には、例えば、物を売ったり買ったりするとき、市場では値下げ交渉をしますよね。企業同士でも値下げ交渉を行いますが、たくさん製品があるため、処理すべき情報量が多く複雑な交渉になります。そこで、人間の代わりにAIに交渉してもらう研究をしています。
―人工知能一筋で研究されてきて、今までにできるようになったところと、今でもできないところを教えてください。
完全にAI同士で話し合うことは、だいぶできるようになってきました。でも将来的には人間を交えての会話が求められます。それが難しいです。人間が使う言葉を「自然言語」と呼ぶのですが、AIは自然言語を理解できません。例えば、「もっと安く」と言っても、それが100円なのか200円なのか分からなくなってしまう。
国際問題の交渉も、AIができるようになるかというと難しいですよね。各国の主張を整理して、最適な解決策を導き出すことが仮にできたとしても、信じてもらえなかったり、AIに決めてもらうのは抵抗がある人もいたりするだろうし。AIによる提案はできても、本当の意味で解決できるのは人間だけです。AIは人間を支援することしかできない。
法学や倫理の観点から、AIをどう対処していくかという問題もあります。いわゆる”トロッコ問題”です。AIは合理的にこっちが得とか損とかはいえるかもしれませんが、AIが判断したものに誰が責任をとるのかという問題もあります。
このように課題は山積みですが、今まで見たことないものを実現させるのは、わくわくしますよね。
※トロッコ問題:トロッコに人が轢かれる寸前の状況を想定した有名な倫理の問題。例えば、もし自分がレバーを引いてトロッコの向きを変えれば、轢かれそうになっている人を助けることができるが、代わりに他の人が轢かれてしまうとする。何もしなければ見殺しであり、レバーを引いた場合は救命と同時に殺人をしたことになる。2つのレールの先にいる人の人数が異なる場合や、その人が赤ちゃんや老人、大統領、自分の家族である場合、判断は変わるだろうか。
AIの分野では、例えば自動運転がこの問題と関わってくる。道路に子供が飛び出してきたとき、ハンドルを切るべきか否かといった状況が想定される。
AIが社会の一員になる時代に向けて
―これから先、高校生が伸ばしていくべき能力は何だと思いますか。
創造力とか先を考える力とか、そういうことを大事にしてほしいです。これから新しいモノや新しいサービスがどんどん出てきますが、それらの使い方をすぐ理解して、どう使うのか、新しい使い方はないのかを考えられるといいかなと思います。結局、それを使うのは人間なので。
―人工知能の研究をしたい高校生が伸ばすと良い能力はありますか?
一番は数学ですね。分かりやすく教えるようにはしていますが、人工知能の研究は結局数式の山になります。高校で学ぶ分野では、一番使うのは確率だと思います。
―数学以外では、強いて言うならやった方がいいことなどありますか?
欲を言うとプログラミングですね。いろんなプログラミング言語がありますが、何でもいいので一回プログラミングをやっておいてもらえると嬉しいです。経験があれば、ある程度は他のプログラミング言語でも対応できるようになってきます。結局プログラミングを知らなければAIは作れないので。実際に研究室ではPythonというプログラミング言語を使うことが多いです。
あと英語も必要です。AIは世界中で取り組まれている研究分野なので英語ができないとなかなかそこに加われません。論文も英語で読み書きします。もっと言うとコミュニケーションもできるといいですね。海外の研究者と一緒に研究することもあります。
―研究をしていて大切にしている点はなんですか?
学生さんと一緒に研究しているので、学生さんがやりたいこと、社会で求められていること、研究としての新しさを両立できるように考えます。学生みんなのいいところを活かすことを大事にしています。
―最後にお聞きします。ご自身の研究を通してどんな未来を思い描いていますか?
AI同士が連携するとともに、そこに人間も加わって、本当の意味で協調し、一歩進んだ社会を実現することが夢です。いろいろな分野で、今まで人間だけではできなかったことを、AIがあることでできるようになればいいなと思います。
AIが社会の一員になると思うとわくわくします。
藤田先生の「先生大図鑑」はここまで! いかがでしたでしょうか?
藤田先生の授業が気になる方は「「人工知能」~AIを賢く使える人に~」もあわせてどうぞ!
最後まで読んでいただきありがとうございました。
文章:わらび
インタビュー日:2021年06月25日
※ 授業の形式等はインタビュー当時と変わっている場合があります。何卒ご了承ください。
※インタビューは感染症に配慮して行っております。
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