近藤敏之先生
〜人と人工物の相互適応でより良い社会に〜
第39回は知能情報システム工学科の近藤敏之先生にインタビューしました。
近藤先生の原点である人工生命の話から、人と人工物の関わりの将来像まで盛りだくさんな内容になっています。ぜひ最後までご覧ください!
近藤先生の授業についてはこちら。
<プロフィール>
お名前:近藤敏之先生
所属学科:知能情報システム工学科
所属研究室:近藤研究室
趣味:ドライブ
人と人工物とのつながり
―先生が研究テーマを決めたきっかけについて教えてください。
僕の原点が人工生命という考え方です。
―あまり聞き馴染みのないワードですね。
コンピュータで生命らしさは表現できるだろうかという話です。コンピュータってあらかじめ作った通りにしか動かないじゃないですか。決まった通りにしか動かないものって、生きているように見えないのかというと実はそんなことはなくて… 例えば、C.LaynordsのBoidsという人工生命の有名な代表例がありますけど、初期状態を決めれば、何回やっても同じように動くけど、まるで生きているように見える。
他にもライフゲームというものがあります。二次元のセルの世界というのがありまして、例えば白いところが死んでいて、青いところが生きている細胞とする。それぞれの細胞は、周囲に生きたセルが2つあれば次の時刻は不変、3つあれば生に変化、それ以外は死んじゃうよと設定したゲームです。
ステップを進めて行くと時間の経過とともにその設定に従って色がついているセルが変化していきます。色がないところが死んでいて、色がついているところは生きているっていう話だったのになんか止まったら死んじゃったみたいな感じがするわけですよ。(先生が作ったデモページのリンクです。Demo → StartまたはRandom→ Startをクリックしてお試しください。 http://www.livingsyslab.org/~kon/Processing/lifegame.html)。要するに決まった通りに動くプログラムであっても、ある条件が満たされると生きているように見えるという話ですね。
―コンピュータと生命というと人工知能が有名ですよね?
そうですね。チェスや将棋をやる人工知能が有名で、人間のチャンピオンに勝ったりしていますけど、人間に勝っちゃったらそれで人間は終わりかというと全然そんなことないと思っています。例えば今の将棋の棋士で若い棋士がすごいじゃないですか。AIを使うコンピュータ将棋がなかったら、ああいう人は生まれてないよね。人工知能が人間をダメにするのではなくて、それを使って人間が新たなステージに行ける可能性があると考えています。ロボットの義足をつけたらオリンピックで優勝しましたとかはナンセンスだと思うのだけれども、その人の社会生活とか幸福度を人工物によって高めることができたら、それは素晴らしいことだと思いませんか。
―人とコンピュータの相互作用ということですね?
そうそう。人と人工物の双方が学習、変化していくというところに非常に興味を持っています。相互適応と呼んでいますけど、今そういうことを根底に考えていて、VR技術やロボットを使ったリハビリテーションシステムの研究などをしています。様々な対象について、人間の学習と人工物の学習っていう2つの動的に変化していくものを相互作用させることで生まれる新しい価値の探究を目指しています。
―人と人工物の相互適応の例として、どういったものがあるのでしょうか?
例えば、人がロボットによる支援を受けながら運動課題を学習する実験で、ロボットの支援アルゴリズムをいろいろと変えて、その学習支援効果を調べています。私たちが調べた結果、完璧に支援してくれるロボットと組んで課題を練習した人は、その後に1人で課題をやるときに大した上達が見られず、逆に少し邪魔になるような支援をするロボットと一緒に練習した人は、その後1人でやったときに上手くできることが分かりました。さらに一歩進んで、ロボットの支援能力を、最初は下手だけど練習していくにつれて(つまり学習者の運動スキルが向上するにつれて)上手になっていくように設計したとき、その人の運動能力が最も高くなることが示されました。「ピア」って言うのだけど、同じレベルの人と一緒に練習に取り組むと、能力が最大限に身につくと言うことが、分かったわけです。
―なるほど。ライバルと切磋琢磨するイメージでしょうか?
これは私の想像だけど、学校の勉強なんかでも先生から教えてもらうよりも、友達同士でああでもないこうでもないって議論した方が、その後で身につくのではないかな?先生が言ったことは教科書に書いてあることと同じで、確かに正しいけど頭に残らないのではないかという仮説を持っていて、例えば、リハビリテーションロボットの課題難易度を調整するときに、こういった知見を使うと良くなるのではないかな。
異文化との交流と自由な発想
―研究をする上で大切にしていることはありますか?
いち早く成果を出すということが研究の世界では重要なので、何かの形で外に発表しておくことは大事だなと。学生さんはほとんど全員在学中に国際会議や発表に連れて行っていますし、留学とかも積極的に支援していますね。やっぱり学生時代は、いろんな経験をするのが重要だと思うので、失敗することも経験のうちだと思います。
―国際会議や海外であることにはこだわりがあるのですか?
国内ももちろん行きますけど、やっぱり文化が違う人と話をする機会っていうのも、すごく重要で、自分を客観的に見られるようになると思いますね。僕も、学生の時に数ヶ月ですけど海外に行きましたし、実は2年前、コロナの前の2019年も5ヶ月イギリスにいました。その間にものすごくいろんなアイディアを思いつくし、客観的に自分のことを見つめ直すことができるので、海外に行くっていうのはそれだけで価値があると思いますね。やっぱり日本にいるとね、気づかないうちに周りに忖度していて(笑)。誰も僕のことを気にしてないと思うと、かなり自由な発想でいろんなことができる。
―それは高校生や中学生でもですか?
現地の人と知り合いになるっていうのは、その文化というか考え方を学ぶ上で非常に良いと思います。ぜひ機会があれば留学した方がいいと思うし、大学に来れば大学の支援制度とかもかなりあると思うのでそういうのを使ってみてもいいと思いますね。
研究の将来と高校生へのメッセージ
―今現在やっている研究がこういうふうに生きたらいいなという将来像を聞かせてもらいたいです。
なるべく多くの人に影響を与えられるようなことをしていきたいですね。例えば、難病の治療技術の開発は大切な研究だと思いますが、それだけじゃなくて予防医療、すなわち社会的に健康寿命を伸ばす、ライフサティスファクションを高めるために暗黙的に人を支援するようなシステムを作っていきたいですね。メガネでもぬいぐるみでも形はなんでもいいけど、パーソナルアシスタントがその人を生まれた時から記録し続けるというのも面白いなと思っています。情報を提供するだけじゃなくて、相互に成長していくような仕組みを取り入れた人工物を作りたいですね。
―最後に高校生に向けて一言メッセージをお願いします。
手軽になんでもできる時代になっちゃったので、色々とすぐに試せるのはいいことだと思うけど、あまり時間をかけずに見限っちゃうのはどうなのかなという気はしますね。どこに行っても最新の情報を誰でも手に入れることができて、発信できる時代って、逆にいうと情報を味わい切らずに捨てちゃうことがあるような気がして、月刊のコンピュータ雑誌しか情報源が無かった身からするともったいないなと思います。だからこそ、させてもらっただけの経験はよくないよね。体験するだけじゃなくて、その後に自分でやってみようっていうのが、将来につながる気がしますね。
近藤先生の「先生大図鑑」はここまで!
先生大図鑑#39はいかがでしたでしょうか?
近藤先生の講義について詳しく知りたい方は「第三十九景「オブジェクト指向プログラミング」〜ただコードが書ければいいだけじゃない?より良いコーディングについて考える〜」もあわせてどうぞ!
文章:ほき
インタビュー日時:2022年2月18日
※インタビューは感染症に配慮して行っております。
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- オブジェクト指向プログラミング