「微分方程式」
〜知れば学んでみたくなる!?工学者による工学のための数学の授業〜
第26回は、田中先生の授業特集です。
なんのために数学を勉強しているのか、数学はなんの役に立つのか。このような疑問を一度でも持ったことのある方、ぜひ最後までご覧ください!
<プロフィール>
お名前:田中 聡久(たなか としひさ)先生
所属学科:知能情報システム工学科
(旧・電気電子工学科)
研究分野:生体信号情報学
趣味:クラシック音楽,ヴィオラ,語学学習(いまは中国語)
今回は知能情報システム工学科を対象とした授業「微分方程式」について、次のようなお話を聞いてきました。
- 微分方程式とは?
- 数学を学ぶことが一体なにに繋がるのか。
- 授業の舞台裏
とにかく重要!微分方程式の授業
ー微分方程式はどのような授業なのでしょうか?微分方程式は工学部にとってとにかく重要な基礎科目です。それとともに、知能情報システム工学科では、大学に入ってすぐに受ける授業でもあるんです。
ーいきなりですか!そうそう。なぜかというと、皆さん高校生のときに物理を勉強したと思うんですけど、基本的には公式の暗記でしたよね。でもそれらの公式は実は微分方程式を使うと自分で導くことができるんです。覚えなくても解けばいいので、力学などを勉強するときにすごく入って行きやすいです。例えていうなら、中学受験で勉強する鶴亀算です。色々な計算方法を覚えますが、結局中学校で習う連立方程式を使えば、同じことが簡単にもっと自由にできることと似ています。だから微分方程式は工学を学ぶための基本中の基本なんです。
数学を学ぶことが一体何に繋がるのか。
ーこのような数学の知識は、研究する上でもやっぱり必要なのでしょうか?そうですね。私の専門の信号処理ではAIや機械学習を扱うのですが、そこでは線形代数がキーになってきます。線形代数の基本的な教科書を一通り読んでいるのと読んでいないのとではAIの理解が全然違います。
と言いつつ、実は私が大学1年生の頃はこの教科書、新品同様でした(笑)大学院に入ってはじめてやっぱり必要だって気づいて頭から全部1人で読み始めたんです。
ーじゃあもうほとんど独学でそうそう。やっぱりなんのために学ぶのかが頭の中にあるから頑張って読めるんですよね。大学一年生の頃に全部読めって言われたら、それこそ本当に数学に興味がない限り無理だと思います。
ーなるほど。どうしたら大学院に進む前に、モチベーションをあげることができるでしょうか?やっぱりどこに使われているのか、どこで世の中と繋がっているのかを知ることですね。例えば、多くの人が大学一年生で行列の計算をやりますよね。一生懸命めんどくさい計算をしながら、なんなのこれ、一体何の役に立つの?という疑問を持つんじゃないでしょうか。でも自分のLINEに写真がポンと送られてきたとき。その瞬間行列の計算をしているんですよ。ーそんなところで!?一体どこに行列が使われているのですか?スマホ上の写真は、画素という細かい点の集まりなんです。明るさが明るかったら白っぽく、暗かったら黒っぽく見えるのですが、この点の明るさの度合いを数値で表現しているんです。点一つ一つが左から順に200,201,255…みたいな感じで数字として保存されている。この数字の並びが行列です。写真は行列そのものなんです。だから、写真を送ることもそうですし、アプリで写真を明るく加工することも行列の計算です。各点の数字に50ずつ足すと明るくなるみたいな感じで。
ーなんと…!では、スマホで見る写真の仕組みは行列の計算を使ってつくられたということですか?そうそう。行列の計算がなければ、LINEで写真を送るとか、インスタに写真をアップするとかできないですよね。
ーそう思って見るとすごいなあこんな感じでどこで世の中と繋がっているのか伝えることを、ものすごく意識していますね。やっぱり、工学部にとって数学は使えてこそのものだからです。数学そのものは非常に楽しい学問ではあります。だけど工学やたぶん農学にとっても、数学はあくまでも道具ですから。
ーなるほど…数学が道具になることを今日はじめて実感しました。
身の回りに存在するのは微分方程式も同じ。伸び縮みするバネのいろいろな動きを微分方程式で理解できると、なんと電気を操れるようになるのだそうです!数学ってすごい!
授業の舞台裏
ー授業のアンケートにはとにかくわかりやすいという声が多くありました。わかりやすくするために意識していることはありますか?高校の勉強からの連続性はものすごく意識していますね。基本全部板書ですし、教科書(ご自身の著書)は、チャート式のような書き込み式です。大学に入ると極限はそもそも何なのか、みたいな厳密性を追う話題も多いんです。だけど、そういう数学に本質的なところは目をつぶって、理解を優先させています。数学の先生が見たら怒り出すんじゃないかっていうくらい笑。
ー(笑)でもそれは工学部にとって数学を使えることが大事だからなんですね。
そうですね。あとは自分はたいして賢くない、学生と一緒に勉強しているくらいの立場で伝えることを意識していますね。大学で先生から教えられてわからないのは先生の知識レベルが半端なくて、そのレベルを前提に話をしてしまうからだと思うんです。例えば、今はできてないと思うけど、飲み会の二次会みたいな超盛り上がってるところに途中から呼ばれて参加した経験はありませんか?
家でまったりテレビを見ている時にいきなり今から来いよ!ってラインが来て行ってみたけど、自分と周りでテンションが全然違った…みたいな。言ってみれば先生は、そのめっちゃテンションの高い二次会の人たちなんですよね。そして家でまったりしていたのが学生の皆さんという感じです。テンションが違うと話しにくいですよね。
ー確かに、ちょっと圧倒されそうです…そうですよね、家でまったりしている人同士で話した方が頭に入って来るんじゃないかなと思うんです。だからなるべく自分の中のテンション、つまり自分の知識レベルを抑えるというか、なるべく高校を出たばかりの皆さんはどうなんだろうということを考えながら授業をしています。
田中先生の「授業百景」はここまで!
このような基礎科目を応用してできる研究とは?どうすれば研究者になれるのか?こんな疑問をもった方。ぜひ「 #26 「田中聡久先生」〜体の中の電気的な信号を医療や音楽に応用する〜 」もあわせてどうぞ!
文章:ノコノコ
インタビュー日:2020年11月17日
※ 授業の形式等はインタビュー当時やアンケートの回答時と変わっている場合があります。何卒ご了承ください。
※インタビューは感染症に配慮して行っております。
- 田中聡久先生
- 知能情報システム工学科(旧:電気電子工学科)
- 微分方程式