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旧授業百景

授業づくりは??づくり、仕込みを重ねて毎年おいしく🍛 vol.2

2020.07.08

田中剛先生の「授業百景」vol.2では、スライド作りについてじっくり教えていただきました!
前回の記事はこちら


田中剛(たなか・つよし)先生
生命工学科

授業と関係ないように見えて関係する小ネタ、笑えるとなおいい◎

―授業1コマの時間配分などはありますか? 毎年トライ&エラーでやっている部分もあるけれど、まず先ほど言ったように、出席カードと言いつついったん自分で考えてもらう時間を授業の最初に10分か15分取り、その後は基本的に講義をずっとしてますね。
 たまに途中で計算を入れたり、「微生物の生育速度を求めるのはこんな式だよ、これを応用して増殖速度を計算しよう」っていうのを解いてもらったり。でもやっぱり90分話しっぱなしになりがちなので、できれば2セクションに分けて、一旦まとまって20~30分近く話したら、四方山話じゃないですけど笑、そういう話をして、というぐらいしか構成は考えていないです。そのままずっと話続けるとたぶん、どんどんみんな寝始めるので笑。
―笑。 ね。まあ、授業で一番考えることと言えば、何の話をしようかなっていうネタ探しですね。今日の授業だと、パーティクルガンっていう遺伝子導入方法で、ヘリウムガスの高圧ガスで微小粒子を打って遺伝子導入する方法があるという話で遺伝子導入の話を一通り授業の前半でするんですね。
 で、みんなも疲れてきたころに「皆さんヘリウムって知ってますか?今、アメリカがヘリウムガスを戦略物資として輸出しないって宣言したんです。だから、今農工大もヘリウム手に入りにくいんですよ」って新聞記事も出して、こんな状況でっていう話をしました。
  そういった微生物学とは全然違うけど、最近のトピックも入れて「皆さん、ガス吸って声が高くなるの、できなくなりますよ」という話をする、そういう小ネタを考えてますね笑。
―めっちゃいいですね笑。大事だと思います笑。 はっはっは笑。そんなの記事に書くのかな笑?―なにか先生方が当たり前にやっていることが、他の先生からするとこういうことやっているんだ!という発見もあるかと思います。

あからさまな空白に心の準備を

 それから、穴埋めにした方がいいなと途中から気付いてそんな風にしてますね。スライド資料は配っていて、ただ全部書いてある資料を配っちゃうとみんな聞かないので、重要なスライドは配るけれど、四方山話みたいなスライドは配らないし、重要なスライドでも配布の方はわざとらしく空欄にしておいて、スクリーンでは赤字で説明が書いてあるとか。

 他には、いろんな装置のスライドに特徴とか効率の説明をあからさまに抜いておいて、口頭で説明しながら「これは低効率なんだ」って書き込むとか。資料が手元にある学生も、「あ、授業中にここ先生がしゃべるんだな」というのが分かるので、そこでその話をする。

ターゲットは少し後ろまで

―他に、空間づくりや言葉選びなどで気を付けていることってありますか? どちらかというと、フランクになりがちというか、見た目も怖いし、早口にばーっと喋りがちっていう自分の特徴があるので、1年生の授業はゆっくり話す。くどいと思われても何回か話したりします。それも先生によって迷うと思うんですよね。要するに、ゆっくり話すと前に座っている学生さんは少し退屈になるんです。
 僕の場合は、 ターゲットは少し後ろまで含めてる。例えば、前の学生が「あー今退屈」って思ってるなっていうのは分かっていて、早く次行けよって思ってるんだなっていうのを耐えながら話しているんだけれども笑。
―そうなんですか笑。 それこそ、前の人の方を意識して話す先生もいるだろうけど、さすがに大人数になると全員に向けてっていう先生はほとんどいないと思いますけどね。
―やっぱり空気が伝わってきますか。 うん笑。

進んでいくとリンクが分かる四方山話をちりばめる。

 あとは、授業準備がいまいちだと、学生のウケもよくないなっていうのも分かるんですね笑。ダメなときはダメですけど、やっぱり自分も話したくて伝えたいことがちゃんと伝わった、っていうときは学生を見ていても分かるので。自分も好きなパワポってあるんですよ笑。
―やっぱりあるんですか笑。ちなみに、好きなパワポって見たいです!  ふっはっは笑。ちょっと待って、恥ずかしいんだけど…オーソドックスなので言うと…恥ずかしいな笑。例えば、これはまじめな、微生物とはっていう定義から始まって 、

 腐るっていうのはそもそもどういうことか、

 で、カレーって放っておいたら腐るんですか?って話をする。答えは「腐らない」なんですけど、どういうことかっていうのを前フリしながら話していく。関西人っていうのもあって多少漫才好きなので。こんな話してていいのかな笑。ちなみにコーノさんは出身どこなの?
―神奈川です。 そうだよね、その人たちにはわからないかもだけど、なんかオチを作らないと気が済まない性格で、パワポとかも、なにか前フリがあって、さっきの前半と後半じゃないけど、何かしらリンクを持たせたい。ペストの話を出して、「このペストマスクみたいなのをたぶん皆さん見たことあるかもしれないけど、これってもともと縁起の悪いかぶりもんなんだよ」だとか、四方山話をちりばめながら。一つの授業ではポイントポイントの話でも、以降の授業に繋がっていくような話なんですね。そうやってうまく前フリが効いているといいな、と。
―回収できているなあとかっていうことですか? そうそう!そういうこと笑。っはっはっは笑。まあ、これなんかパスツールの話で、パスツール研究所には彼が使ってた部屋がそのまま残っているらしくて、100年前のフラスコの中身が腐ることなくそのまま展示されているらしいのね。ほんまかいなって話なんだけども。
―ふっふっふ笑。

 それから、前半で話したペストについて、ヨーロッパでどんなことが起こって結局どうなったかを後半に持ってきて。そしてもっと後で、ペスト菌の属名の由来になった発見者と北里柴三郎がどのような関係だったかとか。実際、エイズの感染ってペストと関係あるのはご存知ですか?
 ペストがヨーロッパで流行って、ある村の封じ込みをした。結構人が死んだんだけれども、ペストに感染しない遺伝子変異の起こった人が特定の地方に多いんですよ。そのペスト感染とエイズの感染経路には、同じタンパク質が関与していて、それが原因で想定していたよりもエイズのアウトブレイクが広がらなかったっていうのが今になって分かったんですよね。
―そうなんですね(゜゜)…。 みたいな話もしつつ、微生物学を学んでいくと、皆さん歴史的な背景から最新の話まで納得してくれるかな、と。だからそういう話を1番最初の授業でするんです。こんな話をこの授業ではやっていきますよ、と。
 結局、この授業を聞いてカレーが腐るかどうか分かりますか?って聞くと、大体みんな腐るっていうんだけれども、いや、だから違うよっていう話をします。パスツールの実験が正しいんだとするならば、蓋をしたまま置いておくと、本当はしばらく腐らないんですよね。放っておいて冷蔵庫に入れなくても、蓋さえ開けなければ、一週間ぐらいは持つよ、そういうもんだよ、みたいな話。一瞬でも蓋をあけたらもうその隙にバッと微生物が入るんだけど、圧力釜で蓋をしたものをしばらく置いておいても、冷凍しなくてもそれは煮沸して滅菌しているんで腐らないし、パスツールが正しいなら100年位持つかもしれないよ、と冗談を言って、ちゃんちゃんって終わるという。

 めでたしめでたし、ってなると、漫才好きとしては、よくできた、いいネタができたな、と笑。
―ネタ作りってことですか笑。 そう、ネタ作りとか近いなと思って笑。結局、年ごとにスライドの仕上がりも、何回かやればよくなってくる。ネタの仕込みは毎年やっぱりするんですよね。これ(カレーの回のスライド)は、もう仕込みの完成度が高いのでほとんどやらない。仕込みが低いやつは、どうやったらさらに良くなるか、時間があるんだったらもう少し考える。
―面白いですね笑。


 この他にも、非常に幅広いお話をお聞かせいただきました!
 自分自身を振り返ると、1、2年の頃の漠然とした疑問が、4年次に「こういうことだったのか!」と解消されるなど、学問を通じて気に留めていなかった色々が前フリとして後々回収されていく、という感じもしてきました。この感覚を授業中に味わえる学生さんが羨ましいです。


―本日は大変お忙しい中、貴重なお時間をいただき誠にありがとうございました。 決して模範とは言いませんが、皆様の授業づくりの参考になれれば幸いです。


田中剛先生の「授業百景」はここまで!
田中剛先生の授業はどのようにできていったのでしょうか?
経緯について詳しくお聴きした「先生大図鑑」はこちら

※ 授業の形式等はインタビュー当時やアンケートの回答時と変わっている場合があります。何卒ご了承ください。