「免疫学・抗体工学」
〜”新しいバイオ医薬品をどう生み出すか?”を考えるための授業〜
第四十三景は、工学部3〜4年生向けの授業「免疫学・抗体工学」について、生命工学科の浅野竜太郎先生にお話を伺いました。
<プロフィール>
お名前:浅野竜太郎先生
所属学科:生命工学科
研究室:池袋・津川・浅野研究室
趣味:旅行、釣り、スポーツ観戦、映画鑑賞
免疫学・抗体工学とは?
ー免疫学・抗体工学の授業では、どのようなことを学べるのでしょうか?
この講義では免疫の基礎から応用、免疫に関係するタンパク質などを扱います。特に抗体に代表される、免疫に関与するタンパク質の機能や多様性、さらにはこれらの工学応用を最新のトピックスと合わせて講義をしています。
ーそもそも抗体とは、どのように使うことができるものなのでしょうか?
抗体の使い道は2つあります。治療薬と検査薬(病気の有無を判別する試薬)ですね。抗体はもともとは、治療薬として使うことを目指して研究されていました。でもそれがなかなか進まなくて、まずは検査薬として、活躍の場を広げたんです。
ー最初から治療薬ではなかったんですね。
そうです。生体に元々ないタンパク質や人工物を体の中に入れるということは、ものすごくハードルが高いことなんです。なので治療薬として抗体を使うことはとても難しく、実現するまでにはいろんな技術的なブレイクスルーがあったんですよね。それらの技術のブレイクスルーを経て、だんだんと治療薬としても使えるようになっていったという経緯があります。
そういうところに興味を持ってほしいと思っています。また、なぜこの分子が今医薬品として注目されているのか、自分がどういうデザインをしたら、その分子から新しい医薬品ができるか、そういうことを考えるための授業です。
ー分子から医薬品をつくることを自ら考えてみる。難しい、、けど面白そうです。
授業中の課題も、そういったことを考えてもらうためにちょっと凝ってつくっています。
大学の課題をのぞき見👀
ー例えばどのような課題がありますか?
例えば、大腸菌で作ることができるようになった抗体医薬の価格について問う課題です。大腸菌は安くたくさんつくることができる。そこから考えると、大腸菌で作らせた抗体医薬も安くなりそうですよね。
だけど、実際には薬価は高かったんです。
ーえ!安く作れるのにですか?
はい。むしろ、先行薬に比べて高い。それはなぜなのか、理由を考えなさいという問です。
ー作るためのコストは安いのに高い値段がつく…?なぜなんでしょうか?
もともとある薬(=先行薬)より安くつくることができるからと言って、後からできた薬の価格が先行薬より低いと、先行薬をつくったメーカーが困ってしまうんです。先発メーカーは新薬を開発するために、長い年月をかけて莫大な研究費を投入してきました。それなのに、急に安くかつより効果的な後発の薬が現れれば多くの人がそちらの薬を選び、先行薬が売れなくなる可能性があります。そうなると、新しい薬を開発する意欲がなくなってしまいますよね。
ー確かに…
だから後発で良いものができた時には、先発メーカーより後発の価格を高くして先発メーカーの利益を守るんです。
あるいは、薬価をつけるときの基準がそもそも先行薬からスタートするとも言えます。こういう値段で売られているものなら、その価格をベースにして値段を考えるのが妥当でしょうとなるんですよね。そういうところを答えてもらう問題です。
ーなるほど…!課題として考えることで、開発の流れを実感できそうですね。
そうですね。やっぱり課題に取り組むときに、インターネットでパパッと検索して答えがみつかったらそれは面白くないし、身につかないですよね。なるべく授業の内容と自分の考えを踏まえて書くような、検索では容易にみつからない内容にしています。
ただ、やっぱり難しかったみたいです。すごく勉強になりましたと言ってくれる人がいた一方で、大変だったという人も中にはいましたね…
ーたしかに、簡単に解ける問題ではないですね…大変だとしても、どうしたら、授業内容や課題に対して興味を持って取り組めるようになるでしょうか。
誰でもできることとしたら、例えばニュース等の報道を見てこれはどういう意味だろう?とか、疑問を溜めておくことだと思います。普段からちょっとでもいいから、こういうことが分からないということをみつけてみて下さい。抗体とか免疫に関するニュースは多いですからね。
ーそういうところに、学ぶきっかけが転がっているのですね。
実際、ニュースを見て質問してくれた学生がいました (実は今指導学生になっています) 。もともと授業で取り上げていた技術だったのですが、オンライン授業になった当初は、資料の著作権の関係で紹介しない予定でした。だけどニュースを見て、興味を持ったから聞きたいなっていう要望が入ったんです。
ー取り上げることはできたんですか?
はい、この技術の開発会社の広報に連絡を入れました。図表を授業に使っていいですかって。
ーそこまでして!学ぶ意欲があると、それだけ先生も応えてくださるんですね。
授業の舞台裏
ー講義の内容や形式は毎年変わっているんですか?
そうですね。毎年変えています。学生さんからのフィードバックを受けて、試行錯誤の繰り返しです。例えば、授業で大量の資料を配られたとき、最後やり場に困らないですか?
ーはい。取っておくかどうか…
捨てるのか、捨てないのか迷いますよね。私は、試験前に資料をじっくり見返さなくても解けるようになって欲しかったんです。講義で集中して聞いてくれれば、資料がなくても解けるような問題を出すようにしていましたから。
ー詳細に暗記するのではなく、大筋を理解していることが大事という。
だから授業資料は配らないで最初はやっていたんです。だけどやっぱり要望があるんですよね、資料が欲しいと。だからその後は復習資料として抜粋した8枚だけを配るようにしました。毎回授業で使用したスライドの中から8枚分って決めて。1ページの片面にスライド4枚並べるとちょうど表裏で8スライド、だから一枚のプリントにまとまるんです。1枚ならとっておいてくれるかなと思って限定して復習資料をアップしたんですけど、でも今度は授業前にほしいっていう要望があって、次の年は予習復習資料として8枚だけのものを事前にアップしました。でも特にオンライン授業がはじまると全部欲しいという声があがりましたが、そのままあげてしまうと結局授業を聞かなくなるんじゃないか。また聞いているかを確認することもできません。そこで現在は、事前に資料のほとんどをアップしていますが、穴埋めなどをつくって、授業中に埋めてもらうようにしています。でもちょっとした落とし穴が最近分かったのですが (やはり学生からの指摘によって) 。。
浅野先生の「授業百景」はここまで!
授業百景第四十三景はいかがでしたでしょうか?
浅野先生がなぜこの研究をするに至ったか、結果が出ないときにどんな勇気が必要か。気になった方は、ぜひ「浅野竜太郎先生」〜医療に役立つ抗体をデザインする〜もあわせてどうぞ!
文章:ノコノコ
インタビュー日時:2020年11月19日
※ 授業の形式等はインタビュー当時と変わっている場合があります。何卒ご了承ください。
※インタビューは感染症に配慮して行っております。
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