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旧授業百景

「植物栄養・肥料学」

“栄養”にとどまらない分野を超えたつながり

2023.02.16

第四十五景は、生物生産学科2年生向けの授業「植物栄養・肥料学」について、大津先生にお話を伺いました。

大津先生の研究人生については、こちらから。

〈プロフィール〉
お名前:大津直子先生
所属学科:農学部生物生産学科
研究室:植物栄養学研究室
趣味: 音楽(鑑賞・演奏)

知識をどのように活かせるか。農業、研究の現場を伝えたい

―「植物栄養・肥料学」の授業の概要を教えてください。

「植物が土からどのようにして栄養分を吸収しているのか」、「栄養にはどのような種類があるのか」、「吸収した後植物の体の中でどのように使われるのか」について学ぶ授業です。また、土の中にいる微生物の話もします。土壌微生物は、有機物を分解して無機物にすることで、植物が養分を吸収しやすいように助けてくれます。ここまでは理科的な内容なのですが、実際の農業では、足りない養分を肥料として与える必要があります。そのため、この授業では、肥料の種類や肥料に関する法律についても教えています。

―授業をする上で、こだわっているポイントはありますか?

はい。こだわっているポイントの一つ目は、学生さんに「基礎から応用まで教える」ことです。二年生向けの授業ですから、その後の学習の土台となる授業なのです。

始めに、植物が成長のために必要とする栄養素を一つずつ解説し、栄養素ごとに現在農業で抱えている問題や課題を話します。例えば、肥料の原料の中で世界的に枯渇しているものがあることや、肥料として与えても土の中で他の物質と反応して植物が吸収できなくなってしまう栄養素のこと、その状態が土壌のpHが変わるとどうなるかといったことなどです。まずは、このような、現場の人が困っている課題を話します。課題の中にも少しだけ解決の糸口があり、その解決に向けた研究などを紹介して話を広げることもあります。次に、学問としての基礎的な知見を、原著論文を交えながらお話ししていきます。この部分は純粋に科学を楽しんでもらえば良いなと思います。一通り基礎科学的な知見をお話しした後、実際の農業現場における植物の栄養素、つまり「肥料」についてお話しします。

一連の授業を通じて、学生さんには、得られた知識をどのように農業現場に活かすことができるのか、つながりを持って考えられるようになってほしいです。

二つ目は、ただ教科書に書いてあることを教えるだけでなく、どのような研究によって明らかになったのかまで伝えることです。例えば、教科書の記述の根拠となっている原著論文を紹介したり、その研究者のエピソードをいれたりします。学生さんも、研究の現場をイメージできた方が興味を持つと思うのです。

実は、植物栄養学は、最近25年で分子レベルでのメカニズムの点で大きく発展しました。変化のカギを握ったのは、様々な植物で全ゲノム配列が解読できるようになったことです。今まで現象としてでしか分かっていなかったことが、遺伝子レベルで分かるようになり、それに基づいて様々な仕組みが解明されました。例えば、栄養分が足りない時になるべく効率的に養分を取り込んで生育するために、どんな遺伝子が関わっていて分子レベルでどんな物質が変化をおこしているのかが分かり、養分欠乏耐性のための機構を解明できるようになったのです。今では、植物の養分吸収や利用に関わる遺伝子のほとんど全てが同定されています。 

現在の植物栄養学の教科書に書かれていることの多くは、最近25年間で解明されたことです。そしてこの25年前というのは、実はちょうど私が大学で研究を始めたころに当たります。植物栄養学の分野は日本人の研究者もかなり貢献しているので、「教科書に書かれているこの部分はあの研究者が解明した部分だな」、「あの頃、隣の研究室では毎日こういう研究をしていたな」というように、研究者の方々を思い浮かべることができ、どの研究が教科書の記述に繋がっているのかだいたい分かるのです。

教科書の原著論文の第一著者は、大学院生であることも多いです。研究室で行う研究によって新たな発見が生まれ、そうして学問は発展して行くのだ、ということを感じてもらえたらと思っています。「皆さんの研究が教科書を、科学を変えていくんですよ」と伝えたいですね。

さまざまな分野へ、つながっていく植物栄養学

―実際にこの授業を受けた生物生産学科の学生の中には、植物栄養学の知識を活かした進路に進む人もいるのでしょうか?

私の研究室に配属された学生さんは、肥料会社や研究所など、まさに植物栄養学の分野に就職する人も多いです。そうでない場合も、土壌中の栄養は作物を育てる基礎なので、農業に少しでも関わるのであれば、植物栄養学は知らなくてはならないベースになるかなと思います。例えば、畜産では、家畜の排泄物を肥料にして飼料となる植物を育てる、養分循環の流れがあります。そういう面では、農業全体に関わってくるかなと思います。他にも、肥料成分が流出してしまうと環境汚染にもつながるので、環境問題とも関連します。社会のいろいろなことに関わるという意味で、植物栄養学の知識はいろいろな職業につながっていくように思います。

―先生から見た植物栄養学の面白さを教えてください。

 植物栄養学は、ミクロからマクロまで扱っていることが面白いと感じます。植物自身の遺伝子、細胞、代謝産物も扱いますので最先端の分子生物学もできますし、植物だけでなく土壌微生物も扱います。また、土壌の分野ともつながりがあります。栄養分は土と植物にとどまらず、水や大気も含めて循環しているので、地球環境とも大きく関わっていきます。

いろんな分野に関わっているので、いろんな分野の方と共同研究する機会があります。それによってさらに研究を発展できることも、とても面白いです。若い頃は植物だけに目を向けていましたが、様々な分野への広がりが見えるようになり、ますます面白いなと感じています。農工大に来てから土壌微生物の研究も始め、土壌の先生、農場の先生、電気を発生する微生物の研究では工学部の先生とも共同研究をしています。

―植物栄養・肥料学に興味を持っている高校生にメッセージをお願いします。

まずは、植物を自分で育ててみてください。水やりをするだけの簡単な植物ではなくて、土を使って肥料をあげながら育ててください。出来れば、プランターでお野菜などを育ててみると面白いと思います。どんな肥料の種類があるのか、何が必要なのかなど、実際に育ててみるといろいろなことが分かります。

ぜひぜひ、自分の手で植物を育ててみてください。その中で、植物に対する興味も一緒に育ててもらえればと思います。


大津先生の授業百景はここまで!

授業百景第四十五景はいかがでしたでしょうか?

大津先生の今に至るまでの経緯、研究への想いについて詳しく知りたい方は「#45「大津先生」~研究は人のためにあり、人が行うのが研究だ~」も合わせてどうぞ!

文章:わらび
インタビュー日時:2022年3月31日
※ 授業の形式等はインタビュー当時と変わっている場合があります。何卒ご了承ください。
※インタビューは感染症に配慮して行っております。