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旧先生大図鑑

大津直子先生

~研究は人のためにあり、人が行うのが研究だ~

2023.02.16

第45回は、生物生産学科の大津先生にお話を伺いました。

大津先生の授業「植物栄養・肥料学」については、こちらから。

〈プロフィール〉
お名前:大津直子先生
所属学科:農学部生物生産学科
研究室:植物栄養学研究室
趣味: 音楽(鑑賞・演奏)

「好き」という気持ちをたどって、研究者に

―なぜ植物栄養学を専門にしたのか、なぜ研究の道に進もうと思ったのか教えてください。

小さいころから、理科が好きでした。高校の時は物理が好きで、世の中のおおもとの仕組みが分かるので面白いなと思っていました。でも、大学に入ったら物理が数学のようになってしまって。化学も物理みたいに数式で考えることが増えてしまいました。一方で、生物は生命活動の仕組みを分子レベルで解明していく学問になってきたので、面白いなと思いました。

生物の中で農業系を選んだ理由についてですが、昔から木々の緑に囲まれているのが好きだ、という感覚を持っていました。また、親から食事の大切さを教わっており、食べることは健康な生活の基本だという思いがありました。

農業系の中で、最もミクロレベルで生き物の仕組みやメカニズムを扱う分野が農芸化学でした。特に植物の光合成や養分吸収機構など、動けない植物がその場で生長するための巧妙な仕組みに興味を持ちました。その農芸化学の中では、動物実験が苦手だったこともあり、植物系に進みました。最終的に、いくつか研究室見学に行ったところ、植物栄養学の研究室で採れたてのお芋をもらいまして、牧歌的な雰囲気に惹かれて研究室を決めました。

そこから研究の道に進んだわけですが、大学4年生で研究室に所属して、研究を始めたらはまりました。自分の手で新しいことを見つけて、それを発表し、周りに評価してもらって、いただいた意見をもとにさらに発展させていく。そんな研究のプロセスがとても楽しかったです。

ただ、研究者という職業を選ぶことについては自信が持てず、修士課程に入ってからもずっと悩んでいました。私はどちらかと言えば控えめな性格なのですが、研究者といえば一人でバリバリやっているような、強いイメージがあったのです。民間で研究職に就くことも考えましたが、理論を応用して何かを作ることよりは、根源的な問いをたてて細かい研究を突き詰めていくこと自体が好きだなと感じていました。

最終的に、当時の指導教員の先生に相談して、「研究者にもいろんなタイプの人がいる。まじめにやっていればきっと結果は出る。」と背中を押してもらい、博士課程への進学を決めました。博士課程に入ってもずっと自信がなかったのですが、少しずつでも前に進むことは止めず、博士論文を書き上げた時点で「ここまでやり切ったから、この先もなんとかできるかな」と思えました。その時にやっと、研究者としてやってゆく自信がつきました。

研究は人のためにあり、人が行うのが研究だ。

―研究者としてのこだわり、大切にしている点を教えてください。

私がポスドク(※)時代にお世話になった先生がおっしゃっていた言葉が、印象に残っています。「研究は人のためにあり、人が行うのが研究だ。」という言葉です。

バリバリと忙しく、最先端の研究をなさっている先生でした。ある時、「学生への指導に時間が取られてしまうという風に感じることはないのですか?」とお聞きしたら、「研究は人のために行うものであり、研究を行うのも人なのだから、人を一番大事にしないといけないよ」と。もしかしたらこのままの言葉ではなかったかもしれませんが、私にはそういう風に聞こえました。

だから、人を大切にすることが基本だと思っています。周りの人や、学生さんを大事にしなくてはならないのです。私自身も、周りの人にたくさん助けられています。

※ポスドク(ポストドクター、博士研究員):大学院博士後期課程(ドクターコース)の修了後に、大学や研究機関で任期付きの職に就いている研究員のこと。

―研究室は仲がいいですか?

仲は良いですね。学生さん同士もとても仲が良いと思います。私自身は大学の運営に関する会議などがあり、研究室にいられないことも多いのですが、特任助教の先生方に指導を受けたり、学生さん同士で助け合ったりしながら自由に研究活動を進めています。

私の研究室では、同じテーマの先輩とチームを組んで技術の伝達をしてもらっています。研究の方針を決めるときはもちろん私も関わりますが、細かい実験の進め方は特任助教の先生や先輩から教わります。基礎的なことができるようになったら、自由な発想をもって動いてもらい、困ったらいつでも相談に乗るよというスタンスです。

―研究をしていて楽しいと感じるポイントはありますか?

私は実は、論文を書くのがとても好きで、自己表現の手段のように感じています。論文は、自分が取り組んだ研究内容を世界に公表する手段です。行ったことを詳細に記入するだけではなく、何が新しくて、そこからどのようなことが考えられるのか、ストーリーとして書いてゆき、さらに研究内容について「すごいでしょ」とアピールまでしてしまう。物語的な要素もあり、そうやってこれまで自分たちが行ってきたことを表現するプロセスがとても楽しいと思っています。論文の審査員の方とやり取りをするのも楽しいです。指摘を受けて直していくプロセスで、とても成長できます。

研究者として論文を書くことで、結果を受けてどうやって考察し、表現していくかを考えるプロセスが面白いと感じています。

また、共同研究者と一緒に活動をするのも楽しいです。いろいろな方とお話しすると、新たな学びや気づきがたくさんあり、自分の世界が広がります。

子育ては一時で終わるが、仕事は一生続く

―研究をしていて大変だなと感じることはありますか?

これはどんな仕事でもそうだと思いますが、子育てとの両立は大変でした。研究と子育ての両方を経験できて、楽しかったですが。

一番大変だったのは、自分の思うようにスケジュール通りに仕事を進められないことです。日々の仕事をしていても、子どもが泣き出してしまうと中断しますし。子どもが熱を出してしまったらどうするかなど、いつ何があってもいいように2週間先まで見越して調整を頑張りました。ただ、研究者は自分で自分の時間をやりくりできるので、比較的両立しやすいと思います。それに、様々な支援があります。農工大でも、女性未来育成機構が研究支援員の派遣などをしてくれました。とても有能な方が来てくださって、実験や事務作業の一部などを手伝ってくれます。実は私は女性未来育成機構の副機構長なのですが、今は男女関係なく育児に関わることも多いので、今年(2022年度)から男性にも支援の枠を広げています。また、周りの先生方も気を使ってくださり、業務を減らしてくれました。時短勤務も利用しましたし、妊娠中に気分が悪くなった時は、女性職員用の休養室で横になって休ませてもらいました。

どうしても子育ての時期は仕事の効率が下がってしまいます。今までの1/3くらいしか仕事が進まないと感じる時期もありました。そんな中で、「よし、子どもが泣き止んだ!今だ」と、効率よく短時間で仕事を終わらせていく技を磨くことができたように思います。その経験は今も生かされていて、仕事は早い方かなと思っています。

子育ては一時で終わりますが、仕事は一生続きます。また元のペースに戻れる時が来るので、ゆっくりでもいいから、いろいろな支援を受けながら、継続することが大切だと思います。辞めてしまうと再開しづらくなってしまうので。

植物の硫黄代謝の研究で世界レベルに

―研究内容を教えてください。

ざっくり言うと、植物の代謝の研究と微生物の研究をしています。

大学時代から、植物の代謝の中でも硫黄の代謝回路を解明する研究を続けています。植物は硫黄を吸収して、グルタチオンという物質を生成します。取り込むときは無機物の硫黄ですが、反応性が高くて不安定なので、貯蔵するときは3つのアミノ酸がくっついた形(=トリペプチド)にしておくのです。グルタミン酸、システイン、グリシンの3つのアミノ酸がくっついているトリペプチドをグルタチオンと言います。

このグルタチオンは酸化防止剤として知られています。植物は酸化ストレスを受けることで、細胞の膜が壊れて枯れやすくなってしまいます。ところが、グルタチオンは酸化ストレスが来たときに守ってくれる働きがあります。このグルタチオンは植物だけでなく人間も酸化ストレスから守ってくれるとされていて、海外ではサプリメントとしても販売されています。

植物の中でグルタチオンが生成されることは分かっていましたが、貯蔵された後、グルタチオンから硫黄を取り出すときに必要となる酵素の正体が分かっていませんでした。「グルタチオンから硫黄を取り出すことにどういう意味があるのかな」「生理的な意義があるのかな」という疑問から研究がスタートして、私たちの研究グループで、グルタチオンから硫黄を取り出す遺伝子の解明に成功しました。経路を同定してそれが環境によってどう変わるかも解明し、世界的に認められる成果を出すことができています。

また微生物の研究は農工大に着任してから始めたことですが、根粒菌やリン溶解菌など、植物への養分吸収を助けたり、生育を促進したりする微生物について研究しています。ドイツとも共同研究していますが、ドイツの土壌にいた根粒菌からは、ドイツの冷涼で乾燥した環境で高い窒素固定能力を維持する株を見つけています。微生物も、生育している環境に適応しているところが興味深いです。

―今までで、特にやっていて楽しいと思えた研究はどんなものですか?

どの研究も楽しいですが、あえて1つ選ぶとしたら、ライフワークとして学生時代から継続して行っている植物の硫黄代謝の研究が楽しいです。博士号を取得した後ポスドクとしてアメリカ留学していたのですが、そこでも行っていた研究になります。世界に認めてもらえるような研究ができたのも嬉しかったですし、それをきっかけにして、世界の研究者と話ができるようになったことも楽しかったです。学生時代に名前でしか見たことがなかった方と、世界レベルのお話ができるようになりました。

―この研究分野で思い描く未来について、教えてください。

研究分野については、今後発展させてゆくのは若い世代の方々なので、研究分野の未来については、若い方々に期待したいと思います。そのために、若い方々のサポートを積極的にしてゆきたいと思います。また、私にはいつもロールモデルがいて、学生時代の指導教員だったり、大学の先輩にあたる女性研究者だったりします。こういった方々にはまだまだ追いつけていなくて、私はまだまだ発展途上なのですが、少しずつでも、前進して行きたいと思います。


大津先生の「先生大図鑑」はここまで! いかがでしたでしょうか?

大津先生の授業が気になる方は「植物栄養・肥料学」~“栄養”にとどまらない分野を超えたつながり~」もあわせてどうぞ!

最後まで読んでいただきありがとうございました。

文章:わらび

インタビュー日:2022年03月31日

※ 授業の形式等はインタビュー当時と変わっている場合があります。何卒ご了承ください。

※インタビューは感染症に配慮して行っております。