「植物生理学」
~未来の教科書を作るのは君だ~
第41回は、農学部1年生向けの授業「植物生理学」について、応用生物科学科の福原敏行先生にお話を伺いました。
学生時代の挫折を乗り越え、未知の世界を探る福原先生の研究人生についてはこちらから。
〈プロフィール〉
お名前:福原敏行先生
所属学科:農学部応用生物科学科
研究室:細胞分子生物学研究室
趣味: ブルースとクラシックロック音楽を散歩しながら聞くこと
熱帯魚(クラウンローチ)を飼っています
「記憶に残る授業を!」学生時代の自分を顧みて授業を練る
―学部1年生の「植物生理学」の授業では、どんなことが学べるのですか?
光合成や植物の環境ストレス、植物ホルモン、花が咲く仕組みなど、「植物生理学」として定義される内容を網羅しています。
僕は植物生理学のなかでも遺伝子発現が専門なので、遺伝子発現について、全15回の授業のうち3回くらいかけて重点的に教えています。
―授業をする上で意識している点はありますか?
一番は、「眠くならないように」と考えて工夫しています。
僕自身は学生の頃あんまり熱心な学生ではなかったので、授業で寝てしまうことがありました。そんな過去の自分を基準にして、出来る限り分かりやすい説明を心がけています。どんなに素晴らしい授業内容でも、学生が寝てしまっては意味がありません。
また、僕は関西出身なので、最低一回は「ウケる」ポイントを授業中に作ろうとしています。あんまりそんなことを意識している先生はいないのかもしれませんが。
その他にも、メモを取りやすいよう板書をしたり、後ろの席の人から当てていったりしますね。
毎回の授業が終わった後に、内容を確認する小課題を出すのも工夫の一つです。また、毎回その授業で印象に残った点や感想を必ず聞いています。学生がどう思っているか、どこが分かりにくいかを知り、改善していきたいので。
あとは、試験前に過去問をたいてい3~4年分公開します。これには理由があります。学生のなかには、「先輩から試験の過去問をもらうためにサークルに入る」という人もいるそうです。僕は学生の頃サークルに入っていなかったので、先輩から過去問をもらったことがありません。だから、サークルに入っていなくても不利にならないように、過去問を公開しています。
実施した試験は出来る限り返却しています。大学では試験を返却しないことも多いのですが、それはおかしいのではと思っていまして。やりっぱなしではなく、間違いを確認できた方がいいですよね。休講で試験が授業最終日になってしまったときなど、返却できないこともあるのですが。
以上が授業で意識していることです。
―きめ細やかに学生目線で考えているのですね。授業のモチベーションになること、やりがいを感じることはありますか?
ちょっと「ウケる」授業をしたい、出来れば記憶に残る授業をしたい。この2つですね。
この授業は1年生で開講されますが、たまに、3年生になって研究室配属されるときに、「先生の授業の、この部分を覚えています」と話してくれる学生もいて嬉しいです。
―どんな話が記憶に残りやすいのか、傾向はありますか?
本題に入る前に、導入としてつかみをいれていますが、つかみは印象に残りやすいようです。
細胞融合って知っていますか? 細胞と細胞を融合させる技術で、教科書では例としてだいたいオレンジとカラタチを融合させたものを紹介しています。「オレタチ」という品種です。でも、オレンジとカラタチを融合させても楽しくないじゃないですか。
そこで、つかみとして牛とバナナを融合させて、牛の遺伝子をバナナに導入したら楽しいのではないかという話をしました。名付けて「バナナ牛」です。
もちろんこんな生命体を作ることは出来ないです。ただ、遺伝子の全体を組み合わせることはできなくても、牛の遺伝子をバナナに導入することであればできます。植物は簡単に遺伝子組み換えができるので。
動物では不可能、植物なら普通!?
―先生から見た植物生理学の面白さについて教えてください。
この授業が開講される応用生物科学科では、食品や医薬などに興味を持っている人が多いのですが、「植物も面白いよ」ということを伝えたいですね。
動物では不可能でそれ自体がノーベル賞ものになるような発見が、植物ではかなり普通にみられます。
分かりやすい例では、植物には「分化全能性」という、自分のクローンを作れる能力があります。つまり、1つの個体の体の一部を使って、新たな個体を作ることができます。人間をはじめとする動物にはできないことで、最近になって科学技術の進歩によりクローン羊の誕生が成功して大きな話題になりました。しかし、植物では、クローンはありふれた存在なのです。
例えば、全てのソメイヨシノはたった一つの木から作られたクローンです。枝を挿し木することによって、簡単にクローンを作ることができます。
これは農学部の学内にたくさんある花ですが、ふつうのお花とちょっと違います。おしべとめしべがなくて、花びらに変わっているのです。このような変異は「ホメオティック突然変異」といって、ショウジョウバエの事例が有名です。受粉できず種子を作れないのにこうして存在しているのは、この枝を土に挿すだけで根っこが出て、殖やすことができるからです。クローンのお花なのです。
この植物は茎を伸ばして遠くの地面に着地させ、その茎から根を生やすことで殖えていきます。これを「ランナー」と言います。イチゴも、同じようにランナーで殖えていきます。
このように、植物は、動物と違って、受精しなくても生殖できる方法があります。良い品種は全部クローンで増やしています。
動物だと難しいことや不可能なことでも、植物だと簡単にできます。
植物はあまり注目されないですが、授業の感想で「植物ってあまり興味なかったけど、興味が湧きました」なんて言ってもらえることがあります。
授業を通じて、ちょっとでも植物に興味を持ってもらえたらいいな、と思っております。
未来の教科書を作るのは君だ
―授業を通じて学生に感じてほしいことはありますか?
高校までの授業は、答えが用意されている内容だけを扱います。でも、大学はそうではありません。授業では、「だいたいここまでは解明されているけど、この先はまだ解明されてないので、ぜひあなた方が将来解明してほしい」と伝えています。
実際に、僕が学生だった40年くらい前には全然知られてなくて、そのあと発見されたり解明されたりしたことがたくさんあります。例えば、花を咲かせる作用があるフロリゲンというホルモンが教科書に載っていますが、比較的最近である2007年ごろに発見されました。しかもそれを発見したのはどこかの遠い人ではなく、僕と同じように日本で大学の先生をしている人です。この発見をした教授と実際にお話したこともあります。そういう身近な人が教科書の内容を塗り替えているのです。
学問をできるだけ身近に感じてほしいです。教科書に書いてあることを発見した人は、農工大の卒業生かもしれないし、案外みなさんと近い存在です。出来ればこれからみなさんにもそういう人になってほしい。そんなメッセージをそこここに散りばめています。
―最後に、この分野に進みたい高校生がやっておくといいことはありますか?
英語です。英語は近道がないので、勉強した分だけ実力が付きます。農工大でも、大学と大学院の入試では英語が重視されます。研究室では英語で文献を読みますし、英語で論文を書きます。ひとまずは、スピーキングや文法よりも英語で教科書を読めるようになることが大事だと思います。
ただ、僕は英語があんまり得意じゃなかったのですけどね。大学でも単位を落としていましたし、恩師の先生にずいぶん英語を教えてもらいました。
福原先生の「授業百景」はここまで!
福原先生の今に至るまでの経緯、研究への想いについて詳しく知りたい方は「「福原敏行先生」~挫折を乗り越えて、想像できない未来を探る~」もあわせてどうぞ!
文章:わらび
インタビュー日:2021年12月9日
※ 授業の形式等はインタビュー当時と変わっている場合があります。何卒ご了承ください。
※インタビューは感染症に配慮して行っております。
- 福原敏行先生
- 応用生物科学科
- 植物生理学