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旧先生大図鑑

長岐滋先生

~十七,八歳くらいまでに思ってたことって、意外とその通りにはならない~

2020.06.10

長岐先生の、今に至るまでの経緯を詳しく教えていただきました!


長岐滋(ながき・しげる)先生
工学部・機械システム工学科をご退職され、
現在シニアプロフェッサーとして授業を受け持っている。

―続いて、現在までの経緯をお聞きしていきたいと思います。修士・博士課程の後はどのような経緯でしたか? 博士を出て、最初の赴任地は岡山大学です。岡山大学の工学部、応用機械工学科っていうところに18年いました。その後、農工大に教授で来て、2017年に退官しました。ドクター出た時に28で、まあ18年ずつぐらいかな。
―なんか、あの、お若いですね(笑)。 お若いですねって(笑)、だって定年なったんだから、もう67ですよ。
―すごくハキハキされてて(笑)。や、見えないです! ありがとうございます。若い人に言ってもらえると(笑)。
―いえいえ!ぱっと見50代ぐらいなのかなと思って、でも退官されて、ってそうですよね。

最初は興味を持てなかった…学生時代

―研究者になろう、というのはいつごろから考えていましたか? 研究者になろうとは全然思ってなくて、もともと大学を出たら4年で卒業しようと思ってたんですね。

 アマチュア無線とかわかります?中学高校生の頃に、アマチュア無線で半田ごてを持ってラジオを作るっていうのを趣味にしていて、だから大学は電気電子工学科に行きたかったんです。でも、入試の時にこれじゃあ無理だよって言われて、まあ似てるから機械でもいいかっていって機械工学科に入ってるんで、そういう意味で入りたくて入った学科じゃないんです。大学自体は入りたいところに入ったんですけど。不本意入学科というか、不本意入学です。
 だから、大学は入ったけど授業は基本的にはあまり面白くないっていう(笑)。
―そうだったんですね(笑)。興味もそんなに…って感じでしたか。 そんなになかった。材料力学の授業が当然あるんですけど、今はほとんどの科目は半期ごとの2単位でしょう、昔は通年科目っていうのがいっぱいあったんですよ。だから、材料力学とか熱力学っていう基礎科目は、やっぱり重要だからって通年で4単位だったんです。

 しかも、その頃は2年生までは教養で、専門は3年生からっていう時代でね。今は、大体2年生から専門に入るじゃない、早ければ1年生でも。
―それは重たいですね。 重たいですよ。しかも、あんまり機械好きじゃない人間が行って、材料力学の授業全然面白くなくて、単位を落としたんです。だから、今も学生に「僕単位落としてるんだよー」って言うと、学生さん笑うんだけど(笑)。
―そうなんですね(゜゜)(笑)。

 で!話は戻って、基本的に私は4年で卒業して就職をするつもりだったんですけど、4年生の研究室を決めるときに就職をするから機械系としての基礎知識はつけてかなくちゃいけないと思ったんですね。で、3力(材料力学・熱力学・流体力学)の中では、材料力学が一番簡単なんですよ。だから、材力の研究室に行こうと思ったんです。その頃からあんまり材力の研究室って人気はなかったんですけど、研究室に入って専門としてやり出したら、力学っていうのが面白くなって、そのままずっといっちゃったっていうかね(笑)。
 材力そのものが面白かったというよりも、連続体*の力学というかそういうのが面白いなーと思い始めて、そのまま修士課程行ったら指導教員の先生から「ドクター行かない?」って言われて、博士課程に行ったという感じですね。

工学部の学生と教育学部の学生に教えていた。

―岡山大学に着任してからすぐに授業は持たれましたか? 岡山大学に助手で着任して、1年か2年で講師になって講義を持つことになって、材料力学はその頃から教えてました。ただ、材料力学の授業を受けていたのは機械の学生ではなかったです。
 私の所属は工学部でしたけど、教育学部の技術家庭科の先生になるような学生に向けて、学内非常勤として材料力学の授業をしてました。どちらかというと、あんまり理科系に強いというわけではない学生さんに材力を教えるというのがあって、分かりやすい例だとか考えざるを得なかったっていうのはありましたね。
 工学部の方では材料力学よりもう少し進んだ、固体の力学だとか塑性工学とかっていうのを授業で教えてました。

 当時は助教授っていうポストにいたんですけども、上のポストの先生との年齢差がそんなになくて、まあそろそろ教授になってもいいかな、っていう感じで、探してたら農工大が公募しててって感じですね。

―授業をしていて、面白いことや楽しいことってありますか? 楽しいこと?(笑)。授業アンケートの記述欄だとか、試験の時にも感想欄を作ってるんですけど、そこら辺に「よくわかりました」とか「おもしろかった」とか言ってもらえると、それは、嬉しいなと思いますね。120人試験受けて、感想を書いてくれるのは1割いるかいないかぐらいですけどね。
 授業アンケートも自由記述の感想欄に書いてくれる人はほとんどいなくて、「字が汚い!」とかっていうのはあるけど(笑)。

もっと面白い!にやわらかく反応できると世界が広がる

―学生時代のお話で、不本意で機械系に入ったっていうのは(笑)。 その話をすると、ええ!とかって学生さんに言われるんですけど(笑)。
―でも、もしかしたら同じ境遇にあるような学生もいるのかな、と思いますね。 逆にね、例えば機械系だったら、「ロボットやりたいから機械に来た」とか「自動車やりたいから機械きたんだ」って言って、逆に凝り固まっちゃってる子がいるんですよね。絶対自動車会社に就職するんだ、とかね。その気持ちは分かるんだけど…17、8歳くらいまでに思ってたことって、意外とその通りにはならないよねっていう話で(笑)。ほかにも、もっと面白いことは今後出てくるかもしれないよねって、っていうのは思いますけどね。自分自身の経験からして(笑)。
 せっかくいいチャンスだから、できるだけ色んなことをすればいいとは思いますけどね。

 「僕はこれがしたい」「ロボットが作りたい」とか「航空宇宙関係のことやりたい」とかね、そういうはっきりした目的を持ってる子が相当数いて、それとは別に、高校時代に物理と数学と理科系がまあよかったから、特に何かを機械工学科でしたいわけじゃないけど、っていう子も機械システム工学科には結構いて。そういう人たちもやっぱり、機械系の学生として卒業するときには最低限のこれぐらいのことは知っておいてもらわないと困るなっていう授業なんですよね、材料力学っていうのは。
 だから、あんまり興味持ってない人に、持ってもらうっていうのは一番そういうことに気を付けてるって感じですね。


 定規やお豆腐など、とっても身近なものから、材料力学という物理の問いかけを出すという長岐先生の授業。板書の講義を中心にしながら、オンラインでのこまめな小テストや資料配布や共有にムードルが使えるというのは意外でした!
 改めて手元や身近なものを見直してみると新しい発見があるかもしれません✨

「先生大図鑑」#14 はいかがでしたでしょうか?
最後まで読んでいただきありがとうございます。次回もお楽しみに!


* 連続体について…

―すみません、連続体ってどういったものなんでしょうか? 普通に我々が物を見ると、例えばイスでもプラスチックでも、これ連続じゃないですか、繋がってるっていうか。水でも何でも流れてるものでもそうですけど、孔(穴)が開いてると思わないじゃない。
 だけど、今の物理学で言うと、これをどんどん拡大して電子顕微鏡で見ていくと、原子と原子の間には真空があって繋がってはないんです。そういう繋がってないやつを扱うのが量子力学だとか、統計力学とかの話になってきますね。

 でも、実際に我々が見る世界は、こう繋がったものであって、変形だとか壊れる壊れないなんていうのは、量子力学まで使って計算する必要はないんですよ。要するに、繋がったものとみなして扱うというのが連続体物理です。
 そういうの習わない?物理で
―(*_*)(笑)。 ふふふ(笑)。物理はやったでしょ。
―はい(笑)。物理はやりました。力学もやったんですけど、剛体とかってそのくらい?ですかね。 そういうことで言うと、中学高校で習うのは基本的に質点の力学。一個の点からぶつかって跳ね返ってとか、質量はあるけど大きさはない、っていうもの。で、高校から今大学に入ると、剛体の力学っていうものになる。大きさはあるけど変形はしない、っていうやつの力学だよね。
 でも、剛体の力学も実は連続体なんですよ。変形はしないけど大きな形はある、そいつがどういう風に動いていくかっていうのです。で、だけど本当は剛体といわれるやつもよく見れば、剛体じゃないんだよ、っていう。
―実は変形してるってことですよね。 そうそう。で、それを本当にミクロな目で見るのが量子力学で、大きな目で見るのが連続体、という感じです。

―ああ、なるほどです! だから、連続体力学というのは、固体力学も流体力学もそうだし、気体の力学も、繋がっているとみなしてつぶつぶの存在を考えないのは連続体です。
―そこまでの精度は求めないってことですか? そう。実際には、量子力学まで考えて計算なんかしたくないじゃない?ていう話です。もう一つ言うと、分子の動きを考えてものの変形を見るとかいう学問もあるんです。今の最先端の研究はそういうとこなんですよ。
 分子動力学といって、分子一個一個がどう動くかっていうのを考えて、なにか大きなものがどういう風に変形するっていうことを調べようとする学問なんですけど、それをするには、少なくとも現状ではすばらしく計算が速くて容量の大きいコンピューターが必要なんです。それを使って例えば、教室のイスの強度設計をするか?っていう話になって(笑)。
―そうですね(笑)。 だから、そんなことはとてもできないんで、連続体物理学は連続体物理学として役に立つものというのは言われてることなんですね。
―なるほど。ふつうのいすについて考えるなら、連続体で十分という感じですかね。面白いです!

【注終わり】