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旧先生大図鑑

田中治夫先生

~数少ない農工大の生えぬき✨高校の先生も考えたけど…~

2020.04.09

田中治夫先生の、今に至るまでの経緯について詳しく教えていただきました!


田中治夫(たなか・はるお)先生
生物生産学科

―続いて、現在までの経緯をお聞きしていきたいと思うのですが、概ね修士・博士以降の経緯はどのような感じですか? 私は、農工大の卒業生です。修士・博士課程もここで、数少ない農工大の超生え抜きです。そのあとすぐ、ここで助手になっています。そのまま、助教授になって、准教授になって、肩書は変わってるんですけど、ずっと農工大で他所は知りません。
― (゜゜)!ストレートな感じですね。 いやいや、それはね、たまたま運が良かった。生物生産学科の先生でも農工大の修士課程を修了した後採用された先生いますよ。
 昔は修士課程を修了してれば助手にはなれた。学部でもなれるにはなれるけど、さすがにそれは無かった。当時は、農工大に博士課程ができたばかりで、僕はその博士課程3期生です。で、その頃は、3年で出るなんておかしいだろってそういう悪ぶった風潮があったんです笑。僕もですけど、実際に半分以上は4年かかってました。
―助手はどれくらいの期間されていたんですか。 今56歳で、博士出て28歳から40歳ぐらいまでずっと助手をやってたから、助手の期間は長いですね。で、昔の助手っていうのは、今と違って実験を教えられるけど授業は全然なかったんですよ。教えられなかった。
―それは助手の先生が、実験をTA*のような形で補助するって感じですか。 いやいや、もう完全に実験は助手がやるって感じです。成績はつけられない、書類のハンコが押せないってだけで、全部資料は作って渡しておいて、学科主任の先生とかにポンと押してもらって、という感じです。だから、40ぐらいまでは実験だけで、授業はやってなかったです。その後、准教授になってから15.6年くらい経ったかな。
―そこで、いわゆる座学の授業を初めて持つことになった、という感じですか? そうですね。最初は他所の先生と分担で5回とかやってたんだけど、その時にそういう色んな事をやってみて、結局板書もやったりしたんだけど、やっぱりうまく伝わらないな、と。

 それで、スライドにしようと思って7、8年前から資料を準備しておいたんです。で、私の前に土壌学を担当していた教授が退職されて、全部をひとりで持つようになった時から、この方式でほぼ変えてない。これ以上の僕にとってのいい方法がないので、諦めて、あとは内容をどうするかっていうので、内容を直す時は、30分ぐらいしかかけないときもあるし、場合によっては、だいぶいじって、3、40時間かかる時もある。マイナーアップからメジャーアップまであるから。
 なんやかんや、スライド一枚作るのに1時間くらいかかっちゃう。それで10枚ぐらい直すと整合性が取れなくなるので、また前のところを直したりして、結局ね。
 今年は教科書が新しくなったので、全て図表は変えないといけない。あと、教科書の内容も一部代わっているのでそこも直します。今年は例年より、ただ単に図表を変えるだけでも結構手間かかってますね。

 それと、昔は白黒の教科書だったけど、今はカラーの印刷代が安くなってるんですよね。だから、カラーの本がいっぱい増えてきていて、図は色があった方がきれいなんだけど、表まで色付けるなっていう感じです笑。
―それは、わかります笑。 表に全部色を付けられちゃうと、見づらいことがあるから、そういうときは古い表を使ったりしてます。分かりやすい例だと、グラデーションつけたりとかさ、意味ないのが結構あるんですよ笑。ただ、パッと見た時はそっちの方が全然綺麗で、見栄えはけた外れで良いんですよ。―スライド発表なら色が濃い順に値が高いなどの表現はありますね。確かに、そうした意図がない場合は色付けのない方が見やすいですね。

合わないものは合わない

―ちなみに、参考にしている本や先生っていらっしゃいますか? 当初は、穴埋めプリントをやってる金勝先生なんかの授業をちょっと覗いたりしてたんです。で、金勝先生やっぱりうまいんですよ。関西の人じゃないのに、適度に笑いとったりとか。
―笑。 だけど、あの話術はもう真似できないし、先ほど言ったように穴埋めをやろうとすると、僕の力ではわけわからないのしか作れないし、だから理想は理想のままにして、自分のやり方をやることにしました。
―いえいえ!それも素敵な選択だと思います。 どうも、それは自分の能力がないってことで、だから、その能力がないことをちゃんと認めていることは自分で偉いと思っているけど笑。
―笑。合う合わないですね笑。 そうそう。金勝先生の形は無理だと思った。

―そのほかに先生の授業を見に行くっていうことはあるんですか。 ないです。学生が、金勝先生の授業はいいからって言うんで一度見に行ったけど、もう無理!と思って、真似できない。だから、良い人の授業っていうのをやっぱり見て、勉強するべきだろうし、昔の環資からBASEに移った岡崎先生は、江戸っ子の先生で笑、話術を勉強するために落語まで勉強していたけど。僕もその先生に教わってたことがあるので、「田中、落語見に行くぞ!」って連れて行ってもらったりしたこともあるんだけど、―えー!いいですね! でも、無理…と思って笑。遊びとして楽しいは楽しいんだけど、それをほんとに授業に生かせるかっていうと…やっぱり、そこまで努力している先生もいるから、それは見習わなきゃいけないかな、と。でも、背伸びしているとつぶれることが多いので。―そうですよね。あの、このインタビューをするっていうのは、良い授業だって言われている先生にお話を聞きに行っているので、少なくとも今の授業が学生からすると天井にあるというか、これ以上を、ということは全然ないので!それに、雑務が増えているという統計も見ましたし。

―先生方に手間をかけてもらってより良くしてもらうというより、コツや技術や心構えの共有でどこか負担を減らしつつより良い授業に近づけたら理想です。 そっか。確かに、研究にもっと力を入れたいんだけど、そのためには雑務の部分が減ると有難いとは思います。実は、私は研究者と言うより高校の先生になりたかったんですよ。
 だから教育に関してはそんなに嫌じゃないです。でも、研究も楽しくて続けたいと思ったので大学の先生になったんですけど、研究をするのにそのための時間が取れないというのは、致命的ですよね。
―研究ってめちゃめちゃ時間かかる(*_*)!って、卒論程度ですけど、すごく感じました。 かかりますね。

高校の先生も考えたけれど…

―ちなみに、高校の先生になりたかったけれど研究者になるっていう経緯を詳しく聞いてもいいですか? 修士の頃に、高校でアルバイトしていたことがあって、そこの校長先生と知り合いだったので、課外活動みたいなことを面倒見てくれっていうそんな感じでやってたんです。まあ、あまり言い方は良くないけど、底辺高と言われる高校で、別に不良って意味ではないんですけど。例えば、卒業生がお店で働いていると、おつりの計算ができなくていい加減に返しちゃったりして。その卒業生を紹介した高校だからってことで謝りに行かなきゃいけないんだ、とかいう話を、その仲良しの校長先生がされているような高校だったんですね。

 学生を外へ連れて行くにも、僕の姿を見失って迷子になっていることがあって、生徒を動物園連れて行ったときに、真っ赤な髪の毛の兄ちゃんが後ろからついてきて、え!なに(゜゜)??と思ったら、女子学生が「途中でナンパされたから連れてきました」とかって笑。
―すごいですね笑。 楽しいでしょう?笑。そういう状況で、僕、教育に向いてないなあ、と思って笑。そう思っていた時に、「あ、研究面白いな」と思ってしまったので、ドクターに進んだんです。

 ドクターに進んだ後は、一つ上の先生が助手でずっといて、「田中は他所行くんだよ」ってずっと言われていて「はーい」とか言ってたんです。それで、ドクターで留年が決まったころに、ボスから急に「ポストが空くから田中残れ」ってその時の教授に言われて、ドクターを取って残ったっていうぐらいですね。教育もできるし、研究の面白みは教えてもらったから、大学の先生もいいかな、と思って。
 でも今は、研究のために必要な書類作ってる時間がなかなか大きいからね、それも一応研究の時間には入るんだけど。
―そうですよね…。申請書とか、がんばってがんばって書いても通らなかったりするとガーンって来ませんか? そうそう。それがしょっちゅうだから。
―つらくないですか(*_*)? まあまあ、慣れてるから笑。申請書を書いたりするのはね、好き嫌いで言ったら好きではないですよ。ただ、面白い結果が出た時にまとめるのは好きで、研究そのものも面白い、それでやっぱり教育も相当好きですよっていう話です。

生え抜きの後輩もすごい

―他の先生方に聞いてみたいことってありますか? みなさんどうしてそんなに仕事ができるんですか、って聞きたいですよ笑。―みなさん、答えてくれますかね笑。 いや、答えてくれない、みんなできませんって答えていると思う。やっぱりみんな、自分ができてないと思っていると思うよ。時間足りないし、どこか、できてないって自覚しながらやってると思う。
―農工大の先生は、すごい仕事量をこなしているって、他の先生方もおっしゃっていました。 周りを見ていると、やっぱりそうですよ、よく生きてるなって。―田中先生もじゃないんですか笑。 いやいやいや、全然。作物の先生がね、毎日のように水田に出て、仕事して研究もバリバリして、なおかつ教育もしているからね。あいつね、喋るとボソボソしててよく分からねえやつなんだけど笑、後輩だからそういう言い方できるんですけど、あいつも生え抜きなんで。農工大の二つ下の学年だから、学部生からようく知っているから、そういう言い方をできるんだけど。彼は凄いと思いますよ。普段は控えめな感じなんだけど、授業になると変わる。だから、怖い。
―ええ笑。 なぜか授業は早口で、私も相当早口だと思うけど、もっと早口。普段はボソボソと喋ってなにもよく分かんないんだけど、授業なるとうわーってでかい声で、ちょっときついだろうなと。
―それは、その声とかが聞こえてくるんですか? そのぐらいは覗きに行ったりするから。さすがに、他の先生の授業をまるまる聞きに行くと怒られるからしないけど、通りがかりで授業をやってると「お、やってんなやってんな」と思って、聞いたりはします。
 渡部泉先生がやってるのはよく覗きに聞いたりしてます笑。通り道の教室でやっていて、なおかつ戸を開けてやってくれる先生じゃないと覗けない。さすがに入ってはいけない笑。
―ちらって感じですか笑。 そうそう。へ―そういうこと教えてるんだ、とか。たまに自転車置きに来るとその自転車置き場から覗けるから、それでこっそりのぞいたりしてるんですけど。
―そうなんですね笑。


―ひとまずですが、お聞きしたいことは訊けたように思います。ありがとうございました! すみません、いい加減な。
―いえいえ!あと、写真を撮ってもいいですか? じゃあ、ドジョウで撮って。
―このドジョウは生きてますか? 生きてるよ。これ水田のドジョウなの。ほんとはいっぱいで飼いたくて、前は10匹ぐらいいたんだけどみんな死んじゃった。2、3匹がいいみたいです。
 これは、土壌研だからね。
―なるほど笑!

田中治夫先生と水槽のドジョウ

 田中先生の授業では、公務員試験を見据えて幅広い内容を扱うため、授業前後の予習復習のしやすさも考えられた構成が特徴的でした。また、授業で扱う内容の位置づけや情報量、自分の得意不得意に合わせて取捨選択をして、一般的なこれがいい!という形に流されないというのも、重要な点ではないでしょうか。
 学生にとって、充実した内容がそれぞれの授業で提供されると同時に、その形式が画一的でないことも、大学全体から得られる面白さに繋がると思います!

「先生大図鑑」第5回はいかがでしたでしょうか?
最後まで読んでいただきありがとうございます。次回もお楽しみに!

* TA…Teaching Assistant の略。優秀な大学院学生に対し、教育的配慮の下に学部学生等に対するチュータリング(助言)や実験、演習等の教育補助業務を行わせ、大学教育の充実と大学院学生のトレーニングの機会提供を図るとともに、これに対する手当ての支給により、大学院学生の処遇の改善の一助とすることを目的とした制度。(文部科学省より)