「国際感染症防疫学」
〜大学院の授業を覗き見る!次世代の感染症学はここから担われていく〜
第29回は「国際感染症防疫学」について感染症未来疫学研究センター(元 国際家畜感染症防疫研究教育センター)の水谷哲也先生に話を伺いました!
今回は、その中での授業の工夫や授業に込めた思いをお聞きしたいと思います!
〈プロフィール〉
お名前:水谷 哲也(みずたに てつや)先生
所属:感染症未来疫学研究センター(元 国際家畜感染症防疫研究教育センター) 教授
(主に、獣医学科の学生が進学)
獣医になったきっかけの本:「ムツゴロウの獣医修行」 畑正憲
次世代の研究者育成の第一歩
…はじめに、国際感染症防疫学の内容について大まかに教えていただけますでしょうか。
国際感染症防疫学とは、博士課程の共同獣医学専攻の一年生を対象にしたもので、国内で第一線で活躍されている大学の先生、もしくは研究所の先生に登場してもらって、自分の研究の面白さを伝えてもらうという授業ですね。
熱意ある若手の方に5人くらい登壇してもらって、「自分の研究がどうして面白いのか」や、「どうしてこの研究をしたのか」などバックグラウンドもお話ししていただいていますね。
…博士課程の研究の初めとして、研究分野に興味を持ってもらうための授業ということでしょうか?
それもあります。ただ、大前提として研究に興味があるので博士課程に進学してきているので、学生には、それに加えて博士課程に進んだ10年後や15年後を想像できるようにしてもらうことを大事にしていますね。
この「到達点が想像できる」というのがとても重要で、自分が10年後、20年後、30年後にどういう姿になっているのか、研究面だけでなく仕事面、私生活に関してもイメージを持っていたほうがいい。例えば、学生には、20年くらい後にこれほどのレベルに達していれば、このポジションにつけて、これくらいの影響力がある研究ができるんだということをしっかり想像することが大事だと説明しています。
…大学院の授業ということで、学部生との違いを意識している点はありますか?
基本的に、私が担当する授業の半分くらいは少人数であることを活かして、書かせたり、考えてもらったりするように心がけていますね。例えば、コロナ禍前の授業は、ウイルスを黒板にかいてもらって、本当に特徴を掴んでいるのかなという部分から始めていました。
あと学部の大きな教室でやる授業では、教科書の解説や暗記が目的になると思うんですけど、大学院のレベルでは、教科書に載っていることは読めばいいと思っているので、授業では教科書に載っていないことを教えたいと思っています。
実際に、国際感染症防疫学の授業でも、最近の研究をテーマにしているので、少し分野が違うと理解できないかもしれないんですけど、全部の知識を理解してもらうことは重要ではなくて、学生には、その中の研究で使われているテクニック、考え方のようなものを肌で感じてもらいたいと思っています。
あと、授業は海外から留学に来ている学生もいるので、基本的に全て英語ですね。ただ、英語が苦手な人やプレゼンターの方もいるので、最低でもスライドだけは、必ず英語にしてもらっています。
…それだけでも、学部とのレベルの差を感じますね…!授業では例えばどのようなテーマを扱うんですか?
そうですね、一つ例を挙げますと、ウイルスと宿主の共進化(複数種の生物が相互作用を通じて、互いに進化していくこと)というテーマがありますね。千年や一万年の幅で見るとウイルスだけが勝手に進化しているわけではなくて、人間や動物もいかに防御していくかという観点で共進化しているんです。つまり、「ウイルスの進化のためには感染される側の宿主も同時に進化していく必要がある」という観点からお話された先生もいらっしゃいましたね。
「評価される真面目であれ。」
…授業の中で先端の研究に触れられる面白さがあるんですね…!ありがとうございます!
授業を含め、先生の目線から今の学生をみて感じることはありますか?
評価者を常に意識したほうがいいということを、授業でも研究室でも言っていますね。
人間は、絶えず評価されているんですよね。学生のうちはそれが点数という形でわかりやすいけども、それは社会に出てもそうで、結局どこかの組織に入れば、絶対に評価されなければいけないんです。
なので、そこで評価されるポイントは確実に掴んでおけということはいつも言いますね。
例えば、俺はこんなに頑張っているのに全然出世できないという人は、たぶん評価されるポイントを間違えて認識しているんですよね。ちゃんと評価されるポイントを満たしていたら、上司はその人を蔑ろにしておかないですよね。これはみんなたぶんわかってはいるんだけど、そこから目を逸らしている。
だから、真面目に考えるのも大事なんですけど、自分だけの考えに従った真面目ではなくて、評価される真面目が重要だと思いますね。
…ありがとうございます。最後に学生へのメッセージをお願いします…!
大学生は、授業を聞いたときに自分で掘り下げたいと思った部分はきちんと掘り下げることが大事になってくるので、教科書だけにとどまらず、そこから1年生2年生でも自分で論文を読み、しっかり掘り下げてほしいと思いますね。学部生だと特に授業は広くテーマを扱うので、学ぶきっかけにしかならないです。その先も先生が手助けしてくれる高校とは違うので、そこから先は自分で掘り下げるという気概を持ってほしいですね。
…ありがとうございました。博士課程の授業、研究のイメージが鮮明になるとともに、科学を担う学生を育てている現場の情熱を感じました…!そして、「評価される真面目であれ」という言葉が響きました。身を結ばない努力に落胆するのではなく、評価されるポイントに合わせた努力ができていないと考えるタフさは、若者としても見習わせていただきます!
最後まで読んでいただきありがとうございました。
授業百景第29景はいかがでしたでしょうか?
この後には、先生の研究者人生や先進的な研究の数々についてお聞きしました!ぜひ先生大図鑑をご覧ください。
※ 授業の形式等はインタビュー当時やアンケートの回答時と変わっている場合があります。何卒ご了承ください。
※ インタビューは感染症に配慮して行っております
文章:こぶじめ
- 水谷哲也先生
- 共同獣医学科