「移動現象論」
〜コーヒーの温度を未来予知!?身近な“移動”を数式で探る〜
第22回は滝山先生の授業特集です!
今回は化学物理工学科(旧:化学システム工学科)を対象とした授業「移動現象論および演習」について、次のようなお話を聞いてきました。
〈プロフィール〉
お名前 滝山博志先生
所属学科 工学部物理化学工学科
研究分野:結晶化工学、晶析、プロセスシステム工学
趣味:音楽を聴きながらドライブ
移動現象論とは?
-移動現象論ではどのようなことが学べるのでしょうか? 物質が移動する、熱が移動する、運動量が移動するという三つに関して学ぶのが移動現象論です。身の回りで起こっている現象をどうやって定式化しますかっていう話です。例えば、紅茶を飲むときに砂糖を入れたとします。角砂糖を入れた時に通常はじっと待っているのではなくて、混ぜますよね。どうして混ぜるのでしょうか。混ぜると早く溶けるからなんですけど、それはなぜなのか、どうしてそのようなことが起こるのかっていうことを式で表します。そういう感じで、物質の移動、熱の移動、運動量の移動っていう三つの移動に関して学ぶというのが移動現象論です。ですから非常に身近な学問なんですよね。
授業の一例〜スターバックス実験
ー滝山先生の授業は身近なものとの関連づけが面白いとの声があったのですが、例えばどのようなことをやっているのでしょうか? よくやるのは、これです。(カップを取り出す)
ースタバですか!はい笑、このカップの中にお湯を入れて、温度計を入れるんですよね。温度をモニタリングして、温度が下がっていくことを確認します。じゃあこの授業が終わる時にお湯の温度が何度になっているのかをみんなで予想してみようと投げかけます。授業をやりながら、例えば、このスターバックスの容器がめちゃめちゃ厚い、あるいはジャケットみたいなのを着ていたら温度って下がりづらそうだと、想像ができてきます。そうすると、この容器の厚みは、少なくとも関係してくるかもしれない、とか。そういうことをいろいろ考えながら、みんなで式を立てて予想していって温度が何分後に何度かなって考えていきます。そして導いた数式から予想した温度と、実際の授業が終わる時の温度を比較するとだいたい当たっているんですよね。そうすると、「あれ、こんなことできちゃうの?」みたいな感じになります。普段目にしているものが式で表せると、未来が予想できるじゃん!みたいな。そういう実体験から数式に入っていけると、毛嫌いされている数式も、ちょっと自分でもチャレンジしてみようかなっていう気になるかなと思っています。
ーなるほど、式を使えばスタバでコーヒーを注文してからどのくらい冷めるか予想できてしまうんですね!
移動現象論のおもしろさ
ーそんな移動現象論を学ぶおもしろさはどういうところにあると思いますか?みんな、根底にある考え方が同じだっていうのがありますね。例えば、熱の移動でも、物質の移動でも、運動量の移動でも、なにか移動しているということは、そこに推進力が働いているということです。じゃあ、それらの推進力はなにかっていうと、例えば、熱の移動では温度に差がついているということです。物質が移動するときは濃度の差ですよね。濃度の差が推進力になって、濃度の濃いところから薄いところへ物質が移動します。そうやって見ると熱も物質も運動量もみんな、推進力があって何かが移動しているという点で共通しています。その点でもう一つ、実は僕、マイケル・ファラデー(19世紀に活躍した科学者。主に電磁気学、電気化学の分野で業績を残した。)がめちゃくちゃ好きで。誕生日が同じなんですよね。ーえ!そうなんですか!うん(笑)、それに気づく前からファラデーとか電気が好きでした。電気の世界でオームの法則(電流=電圧÷抵抗)ってありますよね。ここでの電流の流れ方が、実は熱や温度の移動と、全く同じ性質を持っているんですよ!電流が電圧の差、つまり推進力で決まっているのと同じように、熱の移動が温度の差、物質の移動が濃度の差と、基本的には全く同じ考え方で成り立っているのです。このことに気づかされたとき、やばい!と思いました(笑)。同じ根底から理論を組み立てていけば、我々が身近に見ているこの世界って単純な式で表せるかもしれないんです。そういう面白みがこの学問にはあるなと思います。
授業の舞台裏〜学びへのドライビングフォース(推進力)〜
ー次に、授業の舞台裏の先生の思いについて聞いていきたいと思います。授業を通して学生に感じてほしいことはありますか?やっぱり、感じてほしいのは、授業を通して、あ、それもそうなんだっていう気づきとか、あるいはこういう単純な数式で将来を予想できるんだ!ていうようなハッとすることです。大人になると好奇心が薄れてくることがあると思うんです。でも誰の中にも好奇心は残っていて、授業ではそれを再びメラメラ燃やすことができるチャンスがあると思っています。そこを感じてもらいたいというか、まだまだ君たちの好奇心は捨てたもんじゃない、ということを感じてもらいたいと思っています。ーわあ、素敵ですね!そういう好奇心とか、こういう式とかができたらいいなっていう自分自身に気づいてもらえると、自分で学ぶチャンスが生まれてきます。だから、僕自身としては授業を通してその初速だけを与えられたらと思っています。大学なので、はじめの部分だけは手を引いて、こんな面白い現象があるんだけど、ぜひ定式化のチャレンジしてみない?みたいに。その次のステップにチャレンジしてみようっていう、ドライビングフォースを与えるっていうのが僕の授業の大きな夢かなって思っています。
滝山先生の「授業百景」はここまで!
このような基礎科目の先にどんな研究ができるのでしょうか。滝山先生の研究やご自身について伺った動画も近日中に公開予定です。お楽しみに!
文章:ノコノコ
インタビュー日:2020年11月13日
※ 授業の形式等はインタビュー当時やアンケートの回答時と変わっている場合があります。何卒ご了承ください。
※インタビューは感染症に配慮して行っております。
- 滝山博志先生
- 物理化学工学科( 化学システム工学科・2018年度まで )
- 移動現象論および演習