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旧先生大図鑑

梅澤有先生

〜どんな子どもたちにも自然体験を!裾野を広げる海洋研究者〜

2021.12.21

第37回は環境資源科学科の梅澤有先生にインタビューしました。

サンプル(研究のために採取するもの)を取りに、ときには自ら海に潜り、ときにはオリジナルで器具をつくる梅澤先生。自然や人と関わりながら行う研究の話から、海を守るには何が必要かという話まで、盛りだくさんです。ぜひ最後までご覧ください!

<プロフィール>
お名前:梅澤有(うめざわ ゆう)先生
所属学科:環境資源科学科
研究分野:生物地球化学、生元素動態、海洋化学
趣味:スポーツ観戦、マリンスポーツ

―先生はどんな研究をされているのでしょうか?

「海という生態系に、窒素とかリンとかケイ素などのいろいろな栄養塩が、どこからどのようなプロセスで入ってきて移動しているのか」という観点から研究を行っています。この栄養塩由来の元素が、植物プランクトンを経て、皆が好きな魚やイルカ、クジラへと繋がっていくんです。こういう海洋の環境や生態系の様々なプロセスが、気候変動とか人間の活動によって変化することがあるんだよね。なぜそのような変化が起きているのかということを、安定同位体比という指標を主に使って明らかにしていく、というような研究をしています。

「自分の手で工夫してつくる」という選択肢を

―研究はどのように行なっているのでしょうか?

干潟域を歩いたり、浅海域に機材を背負って潜ったり、漁船や、大型の研究船に乗って、採水や生物試料採集を行い、それらの化学分析を行うことが主体です。例えばこの写真のように…

↑簡易セジメントトラップの回収作業(パラオ共和国)

―(写真を見て)これはなんですか?

これはあれですね。水流の強さによって、海藻の栄養の取り込みがどう変わってくるのかを調べるために、作ったものです。

―え、作ったんですか?

もともと建築学科に入りたかったくらい、小さい頃から工作とか何かを作ることが好きだったんです。これは、撹拌機のプロペラの部分を使って、水の流れを起こしているんです。回転数を変えることで、水流の強さを調節することができるようになっています。大抵の材料はホームセンターで調達していますね。

―全く別の用途のものを改造しているんですか…!

不細工で大したものではないですが(笑)でも、こういうものを面白いと思って作れることも結構重要だと思うんです。

例えば、実験用として売られているものを使ってできることって、既にいろんな人がやっている可能性が高いです。でも売っていないものから工夫して取ったサンプルやデータは、他の人が取ろうと考えたことがないものだった、ということは往々にしてあります。このサンプルを取りたいから、この分析をしたいから、という目的を叶えるために自分でつくることができる。工夫してつくるという選択肢を持っていることは大事なことだと思います。

―何を知ろうとして研究をしているのか、という研究の目的をしっかり持っているからこそできることですね。

そうですね。それは、サンプルを外に取りに行くときも同じです。例えば、東京湾の底の堆積物を取りたいとき。方法としては船の上から泥を採取する機械をドーンと落として、上がってきた泥を分析することもできるんです。できるんですけど、実際自分が潜ると海の底って全然場所によって均一じゃないんです。だから、サンプルを取ったのが、海底のどんな地形の場所なのか、周囲を代表する場であるのか、ということを自分の目で見て、納得して取りたい。

↑様々な場所でのサンプル採取の様子。
ー左上:海面上昇の影響を調べるための地下水採水(ツバル)
右上:チャオプラヤー川河口域での採泥作業(タイ王国)
左下:漁船を用いたサンゴ礁での採水調査(フィリピン共和国) 
右下:セジメントトラップ設置前の調整作業(長崎県大村湾)

やっぱり、「事件は現場で起きている」ならぬ、「自然現象は現場で起きている」んです。だから、自分の目で見て、自分の手で、できるだけ信頼できるデータを取りたいと思っています。そんなことをしていると、ものすごく忙しくなってしまったりもするのですが(笑)

自然科学系の研究であっても、現地の人や漁師さんなど、人とのコミュニケーションが良い研究につながるとも仰っていた梅澤先生。そんな先生のフィールドワーク をもっと知りたい方は、梅澤先生も寄稿している「現場で育むフィールドワーク教育」をぜひ読んでみてください!

研究の世界にも、いろんな人がいていい

―研究のモチベーションはどんなところにありますか?

うーん、あまり知られていない仮説を検証して明らかにしていく研究過程も楽しいけど、海に潜るのが楽しみだったり、研究を通して国内外の色んな人とつながったりすることも同じくらいモチベーションになっています。

サイエンス自体については、僕が学生の頃に一緒に研究していた先輩や先生は、本当に純粋にサイエンスが好きで、月刊の英語論文雑誌を読むのを一番の楽しみにしているような人でした。でも、自分はそこまで思うことはなくて。だから、自分は本物のサイエンティストじゃないのでは、と悩んだ時期もありました。

でも、やっぱり研究の世界にもいろんな人が必要で、純粋にサイエンスを追求する人だけがいればいいというものではないと思うんです。チームワークを持って何かやってみる人、コーディネートする人、学際的にいろいろ広げていく人、そういういろんな人がたくさんいた方が、やっぱり全体としてはいいんですよね。

―私も「研究者はこういうものだ」と、思い込んでいたところがあったかもしれません。

―先生は研究者ですが、環境教育にも力を入れているんですよね?

そうですね。大きく影響を受けたカリフォルニア大学の先生がいて、その方は世界的な研究者なんですけれど、研究に50%の時間を割くとすると、残りの50%は(環境)教育に割くと言っていたんです。そのくらい環境教育は重要だということを言っていて、感銘を受けました。僕らの研究分野って純粋理学的なことで、医薬や農業技術みたいに社会に直接還元するのが難しいんですよね。論文を書いているだけだと、この研究の世界だけの趣味的な集まりになってしまいやすい。でも、サイエンスの面白さ、汚染、環境問題など、伝えるべきことはあります。これらは教育の上に成り立っているものかなと思うんですよね。

―大きな質問ですが、海の環境を守るために、必要なこと、伝えるべきことはなんだと思いますか?

うーん。まず、海ってすごく素敵なところだなっていうことをいろんな人が知っている、そういう意識を持っていることが、汚染につながるような行動を止める、なによりの原動力になると思うんですよね。

例えば、サーフィンをしている人は、海の波が好き、匂いが好き、風が好き、という感情があると思うんです。もし環境問題に全く興味がなくても、そうやって実感として海が好きで、海に触れていたら、汚したくないという気持ちが自然と生まれてくる。

日本人は元来、自然に畏敬の念も持ち、いっぽうで、自然を愛で、自然の細かな変化にもよく気付くことができる民族だったと思います。雨の降り方にしても、時雨、五月雨、氷雨、小雨、子糠雨、など、挙げだしたらきりがないですよね。でも自然の変化に気づかない人は、こういう言葉も必要ないし、言葉が失われていくと、自然を文字のごとく、ありのままに、たもつことさえ、どうでもよくなってしまうのだと思います。

―確かに、自分と関係が薄いものについて、そもそも名前が浮かばないです。その無関心さが、良くないということでしょうか。

そうですね。もちろん無関心なものがあってもいいですが、自然環境の変化についてはそうはいかないですよね。私たちの生存にも関わってきますから。

海も、音や色、匂いなどが朝昼晩や季節ごとに変わったり、いろんな顔を持っているんです。沖縄の石垣島では、現地の言葉で海の地形や海の生き物に、本当に色々な名前がついているんです。それは、現地の人が海のことを大切に思って、海に依存した生活をしている証です。そう、まず親しみを持つことです。海を愛でる人の心が、海を守るために一番必要なことだと思うんです。

―なるほど。できるだけ多くの人がそう思うように。

そうそう。だから、環境教育でもそうだけど、まずは自然の中で楽しむことですよね。楽しんで興味を持ってくれた人に、少しずつ小出しに教えていくという感じです。小学生に最初から、これは同位体が…とかやったら絶対ダメです(笑)

―(笑)大学生でも、ちょっとダメかもしれないです…

どんな子にも自然体験の機会をつくりたい

―これからの研究や教育活動で、思い描く未来を教えてください。

思い描いている僕の小さな夢はね、親がいない子供とか、施設に入っている子ども、あとは障がいを持っている子どもとか、そういう子を海に連れて行ってあげたいんです。自然の中に入る機会がすごく少なかったり、そもそも障がいを持っているといろんな自然体験プログラムに参加できなかったりすると思うんです。普通の小学生には体験できることができないというような、そういう難しさがあるだろうから。いろんな人にとってバリアフリーな自然体験のプログラムができたらいいなということを今温めています。学生を巻き込んでできたらいいな、うん。

―それは、実現してほしいです。私の兄にも不自由なところがあるのですが、だからといってそういう機会が少ないのはおかしいなあと思っていたので。


梅澤先生の「先生大図鑑」はここまで!
最後まで読んでいただきありがとうございます!

梅澤先生の授業についても紹介しています。大学の自由な学びとは?ぜひ「地圏環境学」〜地質も、海も、生物も!見えないつながりを面白がる〜も合わせてどうぞ!

文章:ノコノコ
インタビュー日:2021年5月19日

※インタビューは感染症に配慮して行なっております。